ひとつはふたつに分かたれた

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 鈴音と揺音は、都の外れに居を構える下級貴族の娘として、共に生まれ落ちた。  寝床で寝息を立てる時間も、寝返りを打つ方向も、乳母の乳を求めて泣くのも一緒。あまりにも似ていて、二人でひとつのごとく思えるので、誰もが双子の区別をつけるのに苦労したものだという。  だが、赤子の目が開いて動き回るようになった時、大人達はようやく子供達を見分ける事が可能になった。  鈴音が周囲に興味を持ってあちこちへ這いずるのに対し、揺音はぼんやりと天井を見上げているばかりで、時折、誰かが立てた物音の方を向く。 「見えていないのか」 「なんと言う事」  両親は両手で顔を覆って嘆いたという。  日の光を求める鈴音と、闇の中に生きる揺音。  対極の二人はしかし、それで分かたれる事も無かった。鈴音は銀の鈴をしゃんしゃん鳴らしては近所を走り回って、目新しい物を見つけては揺音に渡し、これは何、と教える。揺音は部屋にいる事を示す樫の鳴子をからから鳴らしてはそれに応え、姉のもたらす物ひとつひとつを慈しんで。  二人はやはりひとつであるかのように成長するのであった。
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