ひとつはふたつに分かたれた

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 そんな鈴音と揺音に転機が訪れたのは、十五の歳の秋深くであった。  紅葉舞う都へ、長い黒髪に、日の本では珍しい紫の瞳を持つ剣士が訪を継げたのである。 「私は、この国の外を旅してきました」  東風(こち)と書いて『あずか』と読む名の青年は、鈴音達の屋敷にも招かれ、大らかな父の許可を得た娘達の前で、旅の話を滔々と語った。 「森林の奥地で虎とまみえた時には、私もさすがに生命の危機を覚えました。辛くも私の刀が勝利を収めましたが」  武勇伝と共に腰にはいた刀を示す姿は自信に満ち溢れ、その整った顔の美しさも相まって、鈴音の胸は意志とは関係無く高鳴りを告げる。隣に寄り添う揺音も、東風の語り口に魅了されているようで、ほうと溜息をついている。  その時、鈴音の心に、不意に一滴の黒い染みが落ちた。 (揺音も、東風様に惹かれている)  同じ男にときめいた妹に嫉妬しているのか。妹の心を掴んだ青年に嫉妬しているのか。判然としない苛立ちが、鈴音の中にじわじわと根を張ってゆくのであった。
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