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(鈴音も、東風様に惹かれている)
夕暮れの残光が自分を照らしている事を認識できない暗闇の中、揺音は自室でうずくまり、自分の心を侵食する、周囲と同じ色を自覚していた。
奇しくも鈴音と同じ感情で、鈴音が同じ男に懸想しているのが気に食わないのか、姉の心を奪った東風が気に食わないのか、どちらなのかわからない。
いずれにしろ、ひとつだった姉が急に遠い存在になった気がして、手を伸ばしてもどこまでも何も掴めないような恐れが、ひたひたと足音を立てて近づいてくる気配すらする。我が身を抱きしめて、ぶるりとひとつ、震えた時。
「揺音殿」
先程話をしていたのと同じ声が聞こえて、揺音はびくっと身を震わせると、声の方へこうべを巡らせた。
「失礼とは思いながら、貴女様の姿が、私の脳裏から離れなくて」
どきり、と胸がひとつ大きく脈打つ。東風は自分を気にかけてくれたのか。快活な姉ではなく、その陰に隠れてばかりの、自分を。
「暗い世界に閉じ込められた、可哀想な揺音殿。ああ、その辛さは、姉君にもわかるまい」
東風の声が、するすると耳に滑り込んで、甘い飲み物でも味わっているかのように全身に染み渡ってゆく。
「私なら、貴女様を救えます。貴女様に、世界の姿をお見せする事ができます。外つ国を巡った私なら」
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