ひとつはふたつに分かたれた

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 聞いてはいけない。姉の声で囁く誰かがいる。  東風の手を取れ。同じ声でうそぶく誰かがいる。 (鈴音、鈴音)  頭の奥がぼんやりして、まともに思考しようとする意志が薄らいでゆく。 「さあ、この箱をお開けください。大陸で手に入れた、盲目を治す万能の薬が入っております。それを含めば、世界は貴女様の意のままに」  つやつやした手触りの四角い物が、揺音の手に収まる。小さく震えるその手で蓋らしき部分を開け、中を探り、触れた小さな丸い何かを、つまみ上げる。  半ば自我を放棄した状態で、口に含む。あまりにも苦い味が広がり、舌が痺れ、麻痺は全身に広がってゆく。 「新たな狭魔(はざま)の姫の誕生を、心より祝いましょう」  そこで揺音の意識は途切れ。  しかし、赤い、そう、「赤い」と認識できる世界が広がった。
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