ひとつはふたつに分かたれた

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(揺音と話そう)  花舞の翁にもらった赤い花を手に、鈴音は家路を急いでいた。  先程東風の話を聞いてから、心に落ちた暗い想いは、じわじわとその範囲を広げている。  このままではいけない。ひとつだった妹との心の距離が離れてしまう。取り返しのつかない事態になる前に、揺音を抱きしめて、沢山謝って、揺音が自分の一番だと告げよう。  頭はそう考えているのに、心は何を今更と嘲笑う。苛立ちを込めた強い足取りはしかし、屋敷の前にたどり着いた時に止まった。  屋敷が燃えていた。昼と夜のあわいの赤い空の下、より(あか)い炎を噴き上げて。  ざっと。頭から血の気が引く幻聴が耳元で響く。手にした花を取り落とす。 「揺音!」  愛しい、愛しかった片翼の名を呼びながら、鈴音は燃え盛る屋敷の中へ飛び込んだ。途端、木の焼ける焦げ臭さと、それをもってしても消えない血の匂いが、鼻を突く。  しゃんしゃん鈴を、からから鳴子を鳴らしても、自室に妹の姿は無い。炎の勢いにかき消されそうな声で揺音の名を叫び、着物も焦がしながら、鈴音は屋敷の中を駆け巡る。  そして、父の部屋に飛び込んだ時、折り重なるようにして倒れている両親と、そこから流れ出す果てしない赤。  それと。 「鈴音」  小さい呟きなのによく耳に通る同じ声と共に振り向く、妹の姿。  その瞳は、黒ではなく、周囲と同じ赤に輝いていた。
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