ひとつはふたつに分かたれた

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「……揺音」  名前を呼びながらも、鈴音の頭は、目の前のそれを妹と認識する事を拒否していた。  その着物が赤よりなお赤く濡れている。手にも、頬にも、赤がついている。それが誰の何か、わからないはずが無い。 「どうしたの、鈴音?」  何という事は無いかのように、揺音が赤い両手を広げて、笑みを見せる。唇の両端を持ち上げる、決してしなかった、邪悪とすら言える笑みを。 「折角、貴女が見えるようになったのに。そんな酷い顔しかしてくれないの? 意地悪さんね」  どうして、と問う前に、背中から胸にかけて、衝撃が走った。のろのろと視線を下ろせば、刀の刃が突き出ている。それを認識すると、凄まじい痛みが瞬時に全身に走って、自分のものとは思えない悲鳴が迸った。 「一撃で死なぬとは、流石は我が見込んだ双子」  嘲弄を含んだ声は聞き覚えがある。振り向いて確かめるまでも無い。いや、振り向く力すら無く、刀が引き抜かれると、鈴音は無様に床に倒れ込んだ。 「我ら狭魔の復活に相応しい場よ」  黒かった髪は銀に変わっており、炎の照り返しで赤を帯びている。  紫の瞳で鈴音を見下ろす東風は、喉の奥でひとつ笑うと、溢れてきた血で一杯の鈴音の口の中に、回虫を団子にしたような紫の丸薬を一つ落とした。 「これでお前も我らの仲間」  鈴音の意識が遠のいてゆく。揺音がいつに無く楽しそうな笑いを垂れ流している。 (揺音)  いつも儚げに微笑んでいた半身の幻を最後に。  鈴音は、揺音がいつも見ていただろう世界に滑り落ちていった。
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