2人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
ゆるゆると目を開ければ、ビルの屋上で、黄昏時の赤い光が、自分に降り注いでいた。
(……夢、か)
真実夢だったらどんなに良かっただろう。遠い遠い日の記憶を苦々しく噛み締めながら、鈴音はひとつ溜息つき、傍らに置いてあった、数百年を共にした相棒が、鞘に収まっているのを確認する。
あの日、東風がもたらした滅びにより、鈴音の世界は壊れた。
目が覚めた時には土の下で、死んだと思って埋められたのだろうが、鈴音の身体は腐ってはいなかった。東風に刺された傷も消え、呼吸を必要としない身で墓から這い出し、夜闇に紛れて都を離れた。
そして知った。
昼と夜のあわいに生きる、人の暗い感情に呼び寄せられ、人を喰らう、『狭魔』の存在を。
『外つ国からやってきたその王の名は、あずか、と言う』
鈴音を保護して、話を聞いた老人は、そう語った。
『選ぶが良い。狭魔として儂に斬られるか。それとも、「狩人」として奴らを斬るか』
鈴音は迷わず後者を選んだ。
最初のコメントを投稿しよう!