ひとつはふたつに分かたれた

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 ゆるゆると目を開ければ、ビルの屋上で、黄昏時の赤い光が、自分に降り注いでいた。 (……夢、か)  真実夢だったらどんなに良かっただろう。遠い遠い日の記憶を苦々しく噛み締めながら、鈴音はひとつ溜息つき、傍らに置いてあった、数百年を共にした相棒(かたな)が、鞘に収まっているのを確認する。  あの日、東風がもたらした滅びにより、鈴音の世界は壊れた。  目が覚めた時には土の下で、死んだと思って埋められたのだろうが、鈴音の身体は腐ってはいなかった。東風に刺された傷も消え、呼吸を必要としない身で墓から這い出し、夜闇に紛れて都を離れた。  そして知った。  昼と夜のあわいに生きる、人の暗い感情に呼び寄せられ、人を喰らう、『狭魔』の存在を。 『外つ国からやってきたその王の名は、あずか、と言う』  鈴音を保護して、話を聞いた老人は、そう語った。 『選ぶが良い。狭魔として儂に斬られるか。それとも、「狩人」として奴らを斬るか』  鈴音は迷わず後者を選んだ。
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