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それはきっとプロローグの五分前
草木が生い茂り夏独特のにおいがする七月の朝、僕はいつものように電車を降りて駅前の交差点で信号を待つ。
半袖の通行人が増えたことに夏の始まりを感じる。
食べ終わったアイスの棒は当たり棒で、いいことが起こりそうな予感がする。
それをハンカチに包んでカバンから本を取り出して活字に目を通す。
ちょうど始めてから一週間がたち、それは朝の寝ぼけ半分の頭を覚ますためのルーティンのようなものになりつつある。
そして隣に同じ高校の制服を着た女の子が静かにやってきて立ち止まると、カバンから本を取り出して読み始める。
この女の子が、僕が読書をするようになったきっかけの人だ。
いつもは女の子の方が先に交差点にいるのに今日は逆だったことに少し違和感を覚えるけれども構わずに読書を続ける。
互いに挨拶を交わすこともなく並んで本を読む様子は周りからしたら奇妙かもしれないけれども、幸いなことに周りに人はあまりいない。
読書しているうちに信号が青になり、女の子が本にしおりを挟んで僕より先に歩き出す。
そのペースはいつもよりも少し早かった。
僕はその様子を見て女の子の後ろを、距離を取って歩く。
高校までの間にある信号はこの信号だけなのでこれから先は高校に着くまで立ち止まることはない。
信号から高校まで歩いて約五分。
今日もまた五分間、女の子の後姿を眺めながら歩き続ける。
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