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口を吸われ、腰を抱かれ、髪を撫でられ。与えられるもの全てが余りにも蠱惑的だ。
「ん、っ、んぅ、う」
絡みつくような口付けを必死に受け止めながら、頭の片隅では「なぜ」という言葉が浮かんできては消えていく。
俺たちは、決してこんなことをする間柄ではないのに。いや、でも馴染みといえばそうだから、間違ってはいないのか。とはいえ、今までこんな風に求めてきたことなんかなかったのに。
それなのに、どうして俺は離れ難いと言わんばかりに周の首に腕を巻き付け、何度も続きを求めてしまうんだろう。
「ん、っ、……っ、夜鷹、っ」
周の掠れた声がした。余裕が無さが伝わってくる。俺も同じだったから、なんだか嬉しくなった。
以前、酒に酔った周を慰めた時は口付けをしていなかった。そこまでする暇もなかったし、余裕もなかった。それに、なにより、勇気がなかったのだ。そこまで踏み込んでいいか分からなかった。
でも今は、体が勝手に求めてしまう。こうすることが当たり前かのように、自然と先を強請っていた。
「これは、約束に反するのかな」
「床入りじゃないから、大丈夫」
「そう、か」
こんな時でも律儀に約束を気にする辺りが、また好ましい。でも、変に何か言って興醒めされても嫌だ。最後まで出来なくとも、せめて、爪痕くらいは残したい。
分厚い舌が入り込んでくる。拒むことなく迎え入れると、じゅるじゅる音を立てて舐めしゃぶられた。身体中に甘い痺れが走る。目尻が涙で滲んだ。あまりにも気持ちがいい。気持ちよすぎて、何がなんだかわからなくなる。
「ん、んんっ、あまね、っ、ふぅ……っ」
「鼻で息をして」
「んっ」
呼吸する暇もないほどの口付けを施しているのは自分のくせに、そうやって優しい言葉をかけてくる。返事をしようと思っても、忙しない口付けの中に埋もれて消えていった。
いったいどれほどの間そうしていただろう。絡まりあっていた足の間に、明確な熱を感じた。自分の腰周りがすでに重たくなっていることには気づいていた。だから、無意識のうちに擦り付け、はしたなく求めていたのだ。
「夜鷹……、っ、いやなら、殴って」
「いやじゃないから、はやく」
「……っ」
呼吸を荒らげながら、周に腰を抱き寄せられる。そのまま勢いをつけて、布団に押し倒された。視界が反転する。見慣れているはずの天井が、欲と熱に浮かされた周によってほとんど隠されていた。
その表情に、どきりと胸が鳴った。
今までそんな顔、見たことがない。
普段の温和で優しげな顔からは想像もできない。今にも食らいついてきそうな、獣の顔をしている。そして、明確に情欲を抱いた男の顔だ。
どうしよう。こんな、こんな顔をされたら。
(食べられたい、このまま……)
拒むことなんて、出来るはずないじゃあないか。
「色男の資産家が、閨ではこんなにも激しいだなんて」
「からかわないで、自分でも、どうしたらいいか分からないんだ」
「好きにすればいい……最後までは出来ないけど」
ぐう、と喉の奥が鳴る音がした。約束を破るからではなく、純粋にこちらの用意が出来ていない。女と違って濡らさないといけないし、その前に腹の中を綺麗にしておかないといけない。
それに俺たちの場合、あと十日は床入りしないと決めていた。だから周も、今から無理やりどうこうするつもりはないだろう。今はその時じゃない。あと十日、我慢すればいい。頭では分かっていても、体が言うことを効かなかったのだ。
「君は、その、嫌じゃないのか」
「嫌なら殴っていいと言ったのは貴方の方だろう」
「うん……あの、それは、私が客だから?」
「今日の質問は、もう終わりだろう?」
だから今は、目の前のことに集中しろ。余計なことを考えるな。夜は、短いんだから。
「周、着物、脱がせて」
「ん」
自分でも驚くほど甘えた声が出た。他の陰間たちも同じようにしているんだろうか。周の手が、襟元に触れた。目に見えて分かるほど震えている。本当に慣れていないのか。だとしたら本当に可愛らしい。
中着がはだけられ、襦袢だけになる。解かれた帯紐は適当に放り投げられ、よほど余裕がないことが分かる。もちろん俺も同じで、心臓が口から出てしまいそうなほど高鳴っていた。
周は、食い入るようにこちらを見てくるから、恥ずかしくなって背中に手を回して自分の方へ引き寄せた。半端に脱げた着物が肩に引っかかったままだけど、それを気にもとめずにまた深い口付けを繰り返す。首を傾けて、口を大きく開いて、飲み込まれそうなほど舌を絡ませ合う。
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