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「君は私の光だ。あのまま、冬の日に死んでしまうはずだった私が生きる希望を得た。誰かを好きになるとか、愛おしいと思うとか、そんなこととは無縁で生きていくと思っていたのに。今こうして君を腕に抱いている。それがどれほど幸福なことか」
「な、なにをそんな、恥ずかしいことを」
「昨夜はもっと恥ずかしいことをしたのに?」
「うっ……」
周が、どこか悪戯めいた顔で笑う。そんな表情も出来るのか。また一つ、新しいことを知った。それでも腰に回った手は俺を気遣うようにずっと優しく撫でてくれている。恥ずかしかったけど、頭がクラクラしたけど、やっぱり嬉しかった。
誰かに愛されることなんて、もう一生ないと思っていたから。
「ああ、ずっとこうしていたいな。鴉を恨む気持ちが今ならよく分かるよ」
「まだ時間はある」
「そうだね……父と母も、こんな気持ちだったのかな」
「ご両親?」
そういえば、俺と周が初めて出会った時、確か既に周は家から出ていたと言っていた。やけに上質な、だけどボロボロになっていた紅白の着物を思い出す。父も母も、居ないと言っていた。
一体何があったのか気にはなったけれど、昨夜は話す暇がなかったな。それに、触れていい話題なのかも分からない。俺にその資格があるのか、分からない。
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