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「ごめん、聞いていて楽しい話でもなかったのに……長話をしてしまったね」
「俺の方こそ、聞けてよかった。貴方にはたくさん質問してきたのに、知らないことがまだあったんだな」
「そうだね。私も、知らないことばかりだ」
腰に触れる手のひらは優しい温かさに満ちていた。お互い襦袢だけしか身につけていないから、肌の温もりや湿り気を感じ取ってしまう。俺は、昨夜、この男に抱かれたのかと嫌でも思い知らされて、また腹の奥が熱くなる。
共寝をした後はみんなこうなるんだろうか。
「夜明けまで、あとどれくらいあるのかな」
「さあ。でも、鴉はまだ鳴いていない」
「この辺りの鴉たちは気が利くんだね」
「よく躾られているんだ」
そんな軽口を叩きながら、二人で小さくクスクス笑う。はた、と視線が絡み、それか合図だったかのようにまた口付けを交わした。触れ合うだけのはずが、いつしか深いものになっていく。昨夜の名残で腰が跳ねると、そのまま抱き寄せられた。当然のように硬くなった熱が太ももに押し付けられる。
でも、俺も同じようなもので。今はもう何も入っていないはずの後孔がはしたなく震えていて。
「困った……朝は当分、迎えられないみたいだ」
「今日くらい別に構わないだろう? どうせこれから、毎日迎えるんだから」
「そう、そうだね、うん、毎日君と迎えるんだ」
「泣くなよ、なんだってそんな、っ、ちょっと、周!? 急にどこ触って……っ!?」
結局、その日は昼過ぎまで布団から出られなかった。雲雀には心配され、女将さんには笑われ、ヨネは微笑ましそうに微笑んでいた。
気恥しいし、体はだるいし、どんな顔をすればいいか分からなかったけれど、なんだか世界は光が射したように眩しくて。ああ、ああ、これが幸福なのかとぐっと奥歯で噛み締めて。
広くて大きな、優しい世界にを羽ばたいていく気持ちになった。
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