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売れないアイドル
『花ッピ・ラングドシャ』のオーディションを受けたのは間違いじゃなかったと思える日は来るかなぁ。
私は一度落選した。一方のカノンちゃんは一発でオーディションに受かったって後で聞いた。
私は落胆してしばらく普通の高校生として過ごした。恥ずかしいからクラスの誰にもオーディションを受けたことも落ちたことも話したことはない。
そんなある日、オーディションを受けたことも忘れかけた一ヶ月を過ぎた頃再オーディションが行われた。唇の形を可愛く作って笑って挨拶して、それから課題曲を歌った。オーディションをしてくれた事務所の人は歌はまあ、こっちでなんとかするかと呟いたのを今でも鮮明に覚えている。それで、私は花ッピ・ラングドシャとしてデビューした。
はい、CDは売れません。今どき握手券だけじゃあ当たり前すぎて売れない。
で、このゾンビよ。
「カット、今の花ッピ・ラングドシャの人?」
カノンが監督に褒められてる。思わず私が呼ばれたのかと思って振り返っちゃった。カノンは倒れたときに頭を打ったらしい。それぐらい身体張ってたんだ。あれぐらいなら私もやれるのにね。私は身体を張る演技もさせてもらえないのかなぁ。まあ、張るけど、この後で主人公が工事現場から拾ってきたハンマーで殴り殺される予定。今日の予定が殴り殺されることだけって、億劫ぅ。
そういえば、カノンってダンスも上手いんだよね。私は親に反対されっぱなしだったからダンススクールに通えなかった。人の夢を邪魔する親ってマジなんなの? カノンはダンススクールにも通ってあっさりセンター。この差は絶対にダンススクール。まあ、試験が歌もあったことを考えると絶対なんて言い切ったらいけない気がするけど。あえて、言わせて。絶対そう!
休憩時間を挟んで今日の仕事は六時間を越えていた。ゾンビメイクに二時間だもん。そこから四時間かかって、一番いいカットを採用するんだって。つまり圧縮して私の最終的に画面に映る時間は十分になるんだ。
あっそ。
って、感じだよね。
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