7人が本棚に入れています
本棚に追加
本物のゾンビ混ざってるじゃん
私は夢想してみた。これがカノンなら? カノンなら何ができる? 撮影四時間の中で最大限に自分を活かせる方法。役名アイドル2を花ッピ・ラングドシャの私、ハルカって認識してもらう方法。主人公役の俳優は今売出し中のイケオジ日向十郎太。この人遅咲きらしい。まあ、名字が爽やかなのに下の名前が十郎太って渋すぎだよね。若いうちに大成しないわけだ。
「ハルカちゃん! 共演できて嬉しいよ。俺ハルカちゃんのこと殴る役だけど、気持ち優しめにやるよ」とか冗談めかして言ってた。
あー、はい! 痛くないようにお願いしますっ! ってテキトーに返しといたけど。
「あ、君君!」
振り返ると、なんと監督がいた。カノンとのやり取りはいつの間にか終わっていたらしい。あ、いつもの作り笑顔しないと! せっかく私に監督直々の指導が入るんだから。
「日向さんとのシーン、削ることになった」
「えっ? そうなんですぅ?」
あ、いつものマネージャーに甘えるときの口調になっちゃった。
「その代わり君のシーンはエキストラと一緒に走るシーンになる。五分後に走るシーンを撮影する」
「ありがとうございます」
ありがとうなのかなぁ。
まぁ、このまま帰れって言われるよりましかな。
走る。とにかく走る。こんなシーンがあるなら短距離走の練習してきたのに。ゾンビが群れになって人を襲うシーン。監督は足の速いゾンビがお好みらしい。
「カット! もう一回お願いします!」
念入りに撮り直す監督。なんか、思ってる映像が撮れないのかも。エキストラに指導するのってマジ大変そう。私だって今日はじめて会った人と話すの疲れるもん。監督は二十人以上を相手に指示を出すんだもんね。私の比じゃないかぁ。
うん? エキストラ増えてない? 腸ウマウマしている。走ってるのに。すごいなぁ。走りながら口に何か入れるって、脇腹痛くなるやつ。走ったら脇腹痛くなるのって未だに謎だよね。
ああ、脇腹痛い。え? 私の脇腹に穴開いてる。誰かに食べられたみたい。気づいてしまったら、ちょー痛い。
「い、いったぁ」
思わず立ち止まって傷口を確認する。噛まれた痕がある。
マジでゾンビなっちゃうじゃん。監督、マジ勘弁してよ。本物のゾンビ混ざってるじゃん。
最初のコメントを投稿しよう!