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いじめがエスカレートすることはなく、私のいじめはかなり緩めでいたずらっ子の遊びのようなもの。蒼はもちろん気がついており、私が犯人なことも最初からわかっていた。
しかし家でその話題に触れたことは一度もない。触れても触れなくても犯人は私以外に考えられなかった。
ところがある日、蒼が私のところにやってきてこんなことを言い出した。
「ねぇ、これは真輝じゃないよね?」
蒼の手の中にはズタズタに切り裂かれたワイシャツのようなものが見えた。たぶん、制服の白いシャツ。真っ白だったと思われるシャツは、泥のようなもので汚され、さらに痛々しいほどに切り刻まれて原型をとどめていない。
シャツを見て思わず正直に答えそうになる。
「いや、さすがにそれは私じゃ……」
そこまで言いかけたところで、待てよ、と考え直す。
このシャツを無残な状態にしたのはもちろん私ではない。隠すことはあっても切り刻むようなことはしない。物を壊せば元には戻せない。元に戻せないようないたずらをしたことはなかった。
一体誰がこんなことを?蒼に余計な不安や心配を与えるのが嫌だった。彼だって来年、大学受験を控えている。
蒼がしっとり潤った瞳でじっと私を見つめ、返答を待っていた。
「いや……ごめん。私」
その言葉を聞いても蒼の表情は変わらなかった。
「最初はここまでする気なかったんだけど、少しやったら楽しくなっちゃって……ごめん。予備のシャツあるよね?一枚しかないなら新しいの買おうか。ネットで私にもちゃちゃっと買えるし」
「……大丈夫。まだ二枚ある」
蒼は他にも何か言いたげな表情を浮かべたが、私を責めることなく部屋に戻った。蒼が部屋に入って物音が聞こえなくなると、私も急いで自分の部屋に入りベッドに飛び乗りうつ伏せになった。
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