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さて、善は急げ、だ。こうなったからにはシャツを切り裂いた犯人を探さなくてはならない。私が蒼を守るのだ。少なくともこの家にいる間は蒼を守ってみせる。蒼に悲しい思いはさせたくない。
それは、彼と初めて出会ったときから私の胸の中に宿り育まれている小さな光だった。全ての負の感情から守ってやりたかった。
一番最初に思い浮かんだ容疑者は堀田伊折。伊折は高校二年生からの友人で、そのころから私のことを好きだった。
自意識過剰だと言われてもしょうがないが、私は伊折の気持ちをずっと知っているし、私が知っていることを伊折も知っている。告白して振られることもわかっているから、伊折は私に絶対に好きだとは言わない。今の関係を崩したくないというよくあるあれだ。
伊折は、茶髪にピアスの軟式野球部で少しチャラい感じはしたが、世にいうイケメンで女子にモテた。私の側にいなかったらもっとモテていたと思う。いつも私と一緒にいるので、たいていみんな私たちが付き合っていると勘違いしていた。
だが私の琴線に触れるのはいつだって蒼だけだ。伊折もそのことを知っていたし、私が蒼と姉弟であることを知っている数少ない友人でもあった。
私が蒼をいじめていることも知っている。いじめていることを知られたのはほんの偶然だったけれど。
*
「何してんの」
私がせっせと蒼の体育館シューズを体育館へと運んでいると、伊折が後ろから声をかけてきた。こんなに朝早く彼が学校にいることは非常に珍しい。
「それ、誰の靴?真輝のじゃないよな?体育館に持って行って何すんの」
思考回路が閉ざされ言葉を失う。
「伊折こそこんな早くに何してるの」
「……たまたま、かな」
嘘だ、たまたまなわけがない。伊折は頭がよかった。勉強もそうだが、勉強以外でも賢く勘が鋭い。私の様子がおかしいことに何かのきっかけで気がつき、調べにきたのだろう。
「種村蒼の靴だよ」
嘘をついてもどうせバレると思い、すぐに口を割った。
「誰?種村蒼って」
初めて聞く名前に、伊折は困惑の表情を浮かべた。
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