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次に浮かんできた容疑者は小野世那だった。小野と蒼は小学生のころから今までずっと塾が一緒で、イコールそれすなわち私とも塾が一緒なことを意味していた。私は中学二年生でその塾に入った、いや入らされたいう方が正しいかもしれない。
それが両親の策略だったかどうだったかはわからないが、実は姉弟になる前から種村蒼を知っていたのだ。
蒼が私を知っていたとは考えにくいが、塾に通う誰もが蒼を知っていた。蒼が常に成績がトップの天才だったからで、目をつぶっていてもその噂を耳にする。
蒼の隣にいたのが小野だった。彼は万年二位の成績で、蒼がいなければ一番になれたはずなのにまだ一度も一番になったことはない。
いつも蒼の隣にいるのが、二番の彼だとはほとんど誰にも知られていなかった。蒼の隣にいる容姿の整った人と認識されていても、名前までは知られていない、二番というのはそういうものだ。
とはいっても天才は天才。天才が何人もいれば、二番にも三番にもなりうる。小野の運が悪かったとしかいえなかった。
蒼が受けると聞いて私の高校を受験し入学した小野。天才二人が平凡な進学校に入学するはめになる。どこに行っても勝てない小野の矛先が、蒼に向かったのではなかろうかと考えた。
小野世那と直接対決することに決めた。蒼が塾にいない日でも、小野を塾の自習室で見かけることがあったから。
ある夜、塾近辺のコンビニの外で待ち伏せをする。今夜来なくても機会はいくらでもあるだろうと、あまり期待せずにのんびりと待った。夜風はまだそれほど冷たくはないので、小一時間外にいても風邪をひくことはなさそうだ。寒さにはめっぽう弱い。
小野は最寄り駅から徒歩か、もしくは高校から自転車で来るはずだった。
ふと顔を上げると、ちょうどコンビニの前を駅方面から塾方面へと向かって歩く彼が見えた。ブルートゥースイヤフォンを耳にぶら下げ、足早に塾へと向かう姿はプロモデルのウォーキングのように隙がない。
予想外に早く小野が現れたので、急激な不安に襲われた。
不細工な蒼に比べ、小野は整った顔立ちをしていた。細身で背が高く、小顔でその美しい顔を隠すかのように大きな黒縁の眼鏡をかけていた。
名前を知らなくても小野を知っている人は塾にも、学校にも多い。いつも蒼の隣にいる背の高い綺麗な男の子、というイメージだろう。二番なことは誰も知らない。
必死にその小野の背を追いかける。背が高いせいか歩くのが速く、私は歩くというよりは走って息が乱れた。塾に着くまでに追いつくことは不可能だと悟った瞬間、暴挙に出た。
「お、小野くん!」
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