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「今日、世那に会ったんだってね」
塾には行かず小野と話した後すぐ帰宅し、自分の部屋に入ろうとしたところで蒼がリビングからひょっこり顔を出した。ドアの隙間から首を伸ばしてこちらを見る姿は何とも滑稽だったが、同時にかわいらしく見えた。イタチが首を伸ばして様子をうかがっているようだった。
小野と分かれてそれほど時間も経っていないのに蒼にバレている。
あいつもう言いやがったな、とため息をついた。
「連絡来たの」
「うん。メッセージが来たよ」
「何だって?」
「いじめられてるのか?って心配された」
「気分悪くしたよね?私が友達を疑うようなことして」
蒼は虚をつかれた顔をする。
「いや、それは、まあ……。真輝じゃないならそう言ってくれればよかったのに」
「……ごめん」
私が謝るとなぜか蒼が笑い出した。
「何で笑うの」
「はは、真輝が素直だと何だかね。それで、世那は犯人だったの」
全く小野を疑っていない口調で質問してきた。
「わかってるくせに」
「まあ……でも真輝にはあまり会わせたくなかったな」
「何で?」
「面食いだから。ほらいつも一緒にいる人も」
一瞬誰のことを言っているのかわからなかった。
「……伊折のこと?」
「うん。みんな彼氏だと思ってるよ」
「そうなんだよね。手もつないだことないのにさ」
私はあまりのバカバカしさに鼻で笑う。
「ないの?」
「ないよ。逆にどのタイミングで友達と手をつなぐの」
「さあ、わかんないけど」
蒼が急に柔らかい笑顔を見せるのでドキリとした。家で二人きりで話すのは本当に久しぶりだったので、私が私として接せられているのかわからなかった。ふんわりとした笑顔が眩しくて自分の目を覆いたくなる。
「事実だけど、信じないならいい」
「怒らないでよ」
怒っているわけではないが、無言で答えた。私だって蒼と喧嘩するために話をしているわけではない。喧嘩もせず適度に仲の良い距離を保たなくてはいけないが、その距離がどれくらいなのか測りかねて家で二人で話すことを避けていた。
「伊折さん……ピアスが似合ってるよね」
「うん」
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