1人が本棚に入れています
本棚に追加
恐る恐るゆっくりドアを開けたところで、ガチャリという金属音が辺りの静寂に滴を落とし波紋が広がった。
静けさが破壊される音が好き。この世界に自分一人しか存在しないと思える瞬間が好き。薄っぺらい膜が破られる瞬間に恍惚を覚える。
家の脇に停めてある自転車の鍵を開け、一時間目の授業の前にあるゼロ時間目の授業へと向かう。大学入試を控えた受験生ならではの朝講習のようなものだった。
少し早めに着いたのでまだ生徒たちの数はまばら。そんな中、私は自分の靴がある三年五組の靴箱ではなく、二年一組の靴箱がある場所へと向かった。仕事は誰もいないうちに、抜かりなく素早く終わらせるに限る。
種村蒼のネームプレートがある靴箱の前に迷いなくたどり着くと、靴箱の扉を開けて室内用スリッパを取り出した。体育館シューズもあったがそれは定位置に置いたまま、空虚と凝縮のアンバランスな箱の中を見つめる。
今日は一体どこへ隠そうか。通路のゴミ箱の中だと汚いし捨てられてしまう恐れがある。こっそり持ち帰ったこともあるが無駄に荷物が増えて面倒だった。結局私は自分の靴箱まで行き、自分の室内用スリッパを取り出して蒼のスリッパをそこへ滑り込ませた。
こんな風にして私、戸川真輝は義弟、種村蒼をいじめている。
最初のコメントを投稿しよう!