How To Command A DEATH GAME

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 ⭐︎最高のデスゲームを行うための五箇条⭐︎  その1  最低半年は我慢。  子供たちを一堂に会した際は最低でも半年は学校生活を送らせましょう。  友情や恋愛やカーストなどの人間関係が確立されてから殺し合わせた方が盛り上がるためです。  学校側とこまめに連絡を取り生徒たちの相関図を作成すると尚良いでしょう。  その2  武器は多種多様に用意  デスゲームの開催地である島内には鈍器や刃物から銃火器まで様々な武器を用意しましょう。男女の体格差を考慮し公平を期すためです。  その3  ゲーム開始前に一人だけ殺す。  自らの権威とデスゲームの真実味を示すために参加者を一人だけ殺しましょう。  ゼロ人でも二人でもなく必ず一人です。  ゲームマスター側による殺し過ぎはVIPを興醒めさせてしまいます。注意しましょう。  その4  身バレダメ絶対!  ゲームの参加者や参加者の父兄には自分の正体を明かさないようにしましょう。復讐を防止するためです。  そのためにマスクや変声器を駆使する必要があります。  その5  優勝者はは必ず保護。  全滅は御法度です。  最後の一人は絶対に生かしましょう。  また優勝者には必ず景品を用意しましょう。親の借金の帳消し等がベターです。  そんな内容が記された大学ノートを閉じ、僕は眼前に並んだ無数のモニターの一つと映像を繋げる。  無機質な部屋の中で目を覚ました三十人の少年少女たちが、一斉に僕を見る。  いや、正しくはモニターに映る、恐ろしいピエロのマスクを着けた人物を、怪訝そうな、あるいは怒りのこもった表情で見つめている。  画面越しの、尚且つマスクで顔を隠している状況にも関わらず、アガり症の僕は背中に嫌な汗をかいていた。  きっと誰だってこうなるだろう。何故ならこれから、僕とさほど歳の離れていないこの三十人を、殺し合わせるんだから──。  変声器の力によって、こもるような低い声となった僕は、こちらを凝視している三十人に向かって語りかける。 「えー……●●高校一年一組の皆さん、こんにちは。君たちのことは別室から監視しており、決して逃げられません。先に忠告しておきますが、君たちの人権は放棄され、今は私が握っています。恨むなら君たちを手放した両親を恨んでください……さて、これから一つゲームをしましょう。君たち三十人が最後の一人になるまで殺し合わっ……殺し合いをしてもらいます」  派手に噛んでしまった。  途端に、集められた生徒たちがざわつき始める。 「今噛んだよな?」 「大事なところで噛んだ」 「殺し合いがなんだって?」 「あいつ今絶対マスクの中で顔真っ赤だろ」  先ほどまでとは一転、僕を馬鹿にするような視線が刺さる。  中でもひときわ態度の悪い茶髪の女子が、鼻で笑いながら僕に向かって叫ぶ。 「第一声でセリフ噛むような奴の言うことなんか聞くわけなくね? 何が殺し合いだよ、冗談はそのふざけたマスクだけにしとけっつーの! みんなもそう思わない?」  出席番号17番、坂上翔子。  彼女が焚き付けると、それに同調した他の生徒たちが、一斉に声を上げ始めた。  あったまきた。  僕は手元に並ぶ操作ボタンの一つを押した。  坂上翔子に付けられた首輪が短い電子音を発した瞬間、首輪の内側の四方から鋭利な刃が勢い良く飛び出し、彼女の頸動脈を貫いた。  舞い上がる鮮血と共に、文字通り首の皮一枚で繋がった彼女の死体が音を立てて倒れると、後には二十九人の阿鼻叫喚だけが残った。  半年前──。  四十三歳という若さで父さんが死んだ。肺癌だった。  父さんの死を容赦なく突きつけている心電図の音を聴きながら、十八歳の僕は、病室のベッド脇で立ち尽くすことしかできなかった。  父さんの葬儀がひと段落ついてから、遺品を整理していた母さんが、僕に六十センチ四方ほどの箱を渡してきた。 「これ、お父さんがあんたにって」  二階の自室に戻った僕は、父さんの遺した箱に手をかけた。僅かに蓋をずらした途端、跳ね上がるようにして箱が開いた。母さんから手渡された時の重さからもわかったが、中にはかなり多くの遺品が詰め込まれているようだった。僕はひとまず、蓋が外れると同時に溢れてきた数枚の便箋──恐らく父さんの遺書──を読んでみることにした。 『正志へ。お前がこの手紙を読んでいるということは、私はもうこの世に居ないのだろう。仕事が忙しく、あまり遊んでやれなくてごめんな。これから大変なこともあるだろうが、私はお前と母さん二人でもしっかりやっていけると信じている。母さんと仲良くな、よろしく頼むぞ。お前は緊張しやすいところがあるから、もっと自信を持って堂々としていなさい。そうすればきっと周りの人もお前についてきてくれるだろう』 「父さん……」  所々歪んでいる弱々しい筆跡。きっとこの遺書は、病と闘いながら必死に書いたものなのだろう。  葬儀の時に枯れるまで泣いたと思っていたのに、また視界が滲んできた。涙を手で拭って無理やり視界を晴らしてから、便箋の続きを読む。 『正志、私はお前に謝らなくてはいけないことが二つある。まず一つ目は、お前が大学に進学する姿を見られないことだ』 「そんなこと……謝らなくて良いんだよ、父さん……」 『今「そんなこと……謝らなくて良いんだよ、父さん……」と思っただろう』 「怖っ!」 『いや、謝らなくてはいけないんだ。なにせ母さんや、お前自身でさえ、お前が大学に入学する姿を見られないんだから……単刀直入に言うと、正志には大学進学を辞めて、家業を継いで欲しいんだ』 「家業……? 父さんの職業は銀行員だったはずじゃ……」 『今「家業……? 父さんの職業は銀行員だったはずじゃ……」と思っただろう』 「怖い!」 『その家業というのが、お前に謝らなくてはいけない二つ目のことだ。私はお前に銀行員として働いていると言っていたが、あれは嘘なんだ』  次の行に目を落とした僕は、思わず便箋を取り落としそうになった。 『父さんな、本当はデスゲームの主催者なんだ』  父は至って真面目な人間だった。少なくとも、闘病中にしたためた遺書の中で冗談を言うような男ではないことは確かだ。自分にそう言い聞かせてはみるが、頭の中には無数のクエスチョンマークと「嘘であってくれ」という思いが交錯していた。  問題の一文の下には『心の準備ができた方はステップ②へ、できていない方は同包されている預金通帳をお確かめください』と書かれていた。インターネット接続の説明書かよ。  僕は箱の中にあった二つの預金通帳を取り出した。そこに記されている額面を目にし、卒倒しそうになった。 「さ、三十億……!?」  手の震えが止まらない。桁を何度確認しても、片方に二十億円、もう片方に十億円が預けられている。銀行員として二十数年間働いたくらいではどう頑張っても稼げない数字が、間違いなく刻み込まれていた。  はっと我に返り、僕は『遺書②』と書かれた便箋を読んだ。 『正志、改めて謝らせてくれ。私が今まで、デスゲームを開催した金でお前と母さんを食わせてきたこと。そしてそれを隠していたこと。そしてこの仕事をお前に継がせることをだ。ごめんちゃい』 「舐めとんのか」 『じゃあデスゲームを開催するまでの手順を今から書くわ、お前はそれに従って動けば良いだけだからよろしく』 「じゃあ、じゃないんだよ。そんなに早く切り替えられんわ」  拒否権はないとばかりに記されたその文章に軽い怒りを覚えながらも、僕は視線を下ろし、デスゲーム開催の手引き書と化した遺書を見た。  そこには数件の電話番号が記されており、上から  ①佐藤  ②鈴木  ③田中  ④石田  と番号が振られていた。  そしてその後に続く文章を読み、僕は恐ろしさに叫び声を上げそうになった。 『まず①の電話番号は日本屈指のヤクザ、佐藤組の組長で、私の知り合いの佐藤さんだ。彼は経営破綻して闇金に手を出したが首が回らなくなり、我が子を差し出すことしかできなくなった多重債務者を牛耳っている方だ。債務者から差し出された子供が三十人程集まったら、彼から電話が来ることになってる。続いて②の電話番号はとある高校の校長で、私の知り合いの鈴木さんだ。①で集めた子供たちを②に手配することで、ひとクラスにまとめて入学させることができる。③の電話番号は小さい島を保有している、私の知り合いの田中さんだ。彼が保有する島がデスゲームの開催地となる。②で入学させた子供たちを拉致してその島に放り出せばゲームスタートだ。ちなみに島内には監視カメラやアナウンス機能が完備されている』  まるで家具の組み立て解説のように淡々と書かれた文章だが、父の恐ろしい素顔を知るには十分すぎるほどだった。クラクラしてきた頭を抱えながら、僕は④の電話番号の持ち主を見て、今度こそ驚愕の声を上げた。 『最後に④の電話番号は総理大臣をやっている、私の知り合いの石田さんだ。①〜③の工程が全て完了したら彼に連絡すると良い。デスゲームを観覧する各界のVIPを集めてくれることだろう。そのVIPが払う観覧料が私の……いや、お前の収入となる』  総理大臣……そうりだいじん……。  突然飛び出したビッグネームに思考がめちゃくちゃになる。知り合いが多岐に渡りすぎだろ。  混濁した頭を必死で動かして一つはっきりした。父さんが主催していたのは、秘密裏に行われている国を上げてのデスゲームだ。そう言われてみれば父さんの葬式に参列していた人は皆、目の奥がギラついていたような気がする。 『私の遺品のパソコンに過去のデスゲームのデータが残っているから、参考にすると良い。パスコードは37564(皆殺し)だよーん(笑)』 「シンプルにおもんない」  僕は『遺書②』を投げ捨て『遺書③』を手に取り、読み進める。 『預金通帳はもう見たか? 私の財力にひれ伏せ』 「やかましいわ」 『二十億円の方がお前と母さんの今後の生活費で、十億円の方がデスゲームに必要な備品を買ったり、先述した四人へ手数料を払うための費用だ。一度の開催で五千万ほど使うのが目安だから、無駄遣いするんじゃないぞ』  デスゲームの裏側がより詳細に説明されていく度に、とんでもないことを任されている自覚が芽生えてきて動悸が激しくなる。 『さて、文章ばかりで飽きてきた頃だと思うから、箱の中身をお父さんと一緒に見てみよう!』 「急に教育番組のお兄さんみたいな軽薄なノリやめろ」  箱をひっくり返すと、ごく普通のA4の大学ノートと、妙なマイクとノートパソコン、そして禍々しい表情をしたピエロのマスクが出てきた。 『大学ノートには私のこれまでの経験からなるデスゲームの五箇条が記されているから、後で読んで参考にすると良い。マイクは変声器付きだ、これで子供たちにアナウンスをしろ。ノートパソコンは先述した通りだ。そしてモニターに自分を映す時は、そのマスクを被れ。お父さんのお下がりだぞ、おっ似合ってるじゃないか、ワハハ』 「まだ被ってねぇよ。デスゲーム用のマスクのお下がりで和気藹々とするなよ」  僕はPCの電源を入れて、パスコードを解除する。試しにマイクを繋げて喋ってみると「警視庁二十四時」で顔にモザイクをかけられた犯罪者から出るような野太く低い声が出て気分が悪くなった。  デスクトップに作成されていた「可愛い猫」という名前のフォルダを開くと、過去のデスゲームのデータが山ほど出てきた。エロ画像を隠す中学生のノリでなんてものを作ってんだ。  確認してみると、二十年前に開催された第一回の優勝者は女子だった。他のクラスメイト三十人を殺して優勝したらしい彼女の顔は、妙に見覚えがあった。名簿と照らし合わせると下の名前が母さんと同じだったので何も見なかったことにした。 『長くなったが、私がお前に伝えられることはこれくらいだ。若い者に未来を託して逝ける、こんなに幸せなことはない。というわけであとは任せた、ガンバ♡』 「どこで茶目っ気出してんだよ」  ハートマークの横に可愛いピエロの絵が描かれている『遺書③』を投げ捨たところで、階下にいる母さんが僕を呼んだ。恐らく夕飯の手伝いだろう。  キッチンで包丁を片手に手際良く料理をしている母さんに、恐る恐る問いかけてみる。 「母さんさ、今までに何かの競技とかで優勝とかしたことある?」 「一回だけあるわよ」  そう答えた母さんの背中から、今までにない異様な雰囲気を感じたが、気のせいだと思うことにした。  翌日、僕は意を決して『遺書②』に書かれた電話番号に連絡をした。  佐藤さん、鈴木さん、田中さん、そして石田さん……四人とも父さんの葬儀に参列していたらしく、僕が「高橋和夫の息子ですが」と言う前に、励ましの言葉をかけてくれた。  四人はとても丁寧にデスゲーム開催までの説明をしてくれたが、時折、物腰の柔らかな口調で 『安心してください、子供たちの所有権はうちにあるので何匹死んだって構いませんよ』 『クラスメイト全員が仲良く過ごせるような学園生活を送らせます、その方が楽しくなりますからねぇ……』 『既に島内に置いてある武器や罠のメンテは完了してるので、追加で発注したらいつでも送ってくださいね』 『殺し合いが派手なほどVIPはチップを弾むので覚えておいてください』  こういった恐ろしい発言をすることだけは慣れなかった。  四人への電話を終えた後、僕はもう一度、携帯電話の画面に番号を打ち込んだ。  数分後、進学予定だった大学入学辞退の連絡を終えた僕は、傍に置かれたピエロのマスクを見ながら「もう後戻りはできないぞ」と思った。  いつの間にか背後にいた母が「島へ行くときは変声器を忘れないようにしなよ、お父さん一回忘れてあたしが届けるハメになったんだから」などと言っていたが聞かなかったことにした。  その後、先の四人と逐一連絡を取り、半年間綿密な計画を練り続け、とうとう決行の日がやってきたのだ──。    鮮血で赤く染まった床に転がる坂上翔子。彼女の死体に絶叫する生徒たちを静かにさせた僕は、ルール説明を行った。  ここが絶海の孤島であり救助は来ないこと。島内には様々な武器があり早い者勝ちであること。最後の一人になった生徒が勝者であり今後の人生を保証されること……。  説明を終えた後、呆然としていた生徒が一人、また一人と部屋を飛び出し、このデスゲームに参加していくのを見ながら僕は、妙な昂りを覚えていた。父さんの遺書に記してあった言葉を思い出す。 『お前は緊張しやすいところがあるから、もっと自信を持って堂々としていなさい。そうすればきっと周りの人もお前についてきてくれるだろう』  こういうことだったんだね、父さん。  今や僕の言葉で、一国の首相を含む四人の恐ろしい人物と、二十九人の少年少女たちが動いているのだ。僕の中で、デスゲームの主催者としての自覚がメキメキと芽生えていくのがわかった。  モニターには新たに二つの別室が映る。  父兄席では坂上翔子の父親が泣き崩れており、VIP席では金を払ってこのゲームを観戦している金持ち共が乾杯している。  先ほどまで三十人のガキ共がいた無機質な部屋には、既に死体が一つ転がっているだけだ。全員が外に出て、デスゲームへの参加を表明したことになる。 「いくよ……父さん」  親子二代によって受け継がれたデスゲームが、今まさに始まろうとしている。  僕は島内のそこかしこに設置されているスピーカーを全てオンにし、叫んだ。 「てめぇら派手に殺し合えコラァ!」  VIP席から上がる歓声を聴きながら僕は、これまでの人生で一番の清々しさを味わっていた。
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