<1・帰ってきたら居候が増えていた。>

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<1・帰ってきたら居候が増えていた。>

「ただいま」  実家にいた頃の癖だ。そんな風に挨拶をしながら、ついつい玄関を開けてしまうのは。  だからって何が起きるわけでもない。自分はもう何年もこのアパートで一人暮らしをしている。一緒に暮らしている人間がいないなら、当然挨拶をしたって返事がくるはずもなく。  しん、とした空気にも慣れたつもりだった。孤独には慣れている。彼氏いない歴二十八年、イコール年齢。今更誰かのぬくもりが欲しいなんて、そんなこと考えたこともなかったのだから。  ゆえに。 「あ、お帰り!」  何故。  ドアをしめて三秒で、返事が来るなんてあり得ないのだ、本来なら。  緑髪のイケメンがひょっこり顔を出すのも。  その頭に触覚みたいなのが生えてるのも。  背中に羽根っぽいものがあるのも、全部。 「なかなか帰ってこないので、心配してしまったぞ!えっと、そなたの名前は桜坂ミチルであっているだろうか!?」  しかも、にこにこと笑いながら彼が言った言葉と、その手に持っているものが最悪だった。 「そ、そ、それは私の、同人誌いいいいいいいいいいい!」  長谷川小夏(はせがわこなつ)。二十八歳独身、彼氏ナシ、しがないOL。  仕事から帰ったら、待っていたのは人外のイケメンでした。それなんてラノベ展開?である。
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