<3・ポテトサラダとサンドイッチ。>

2/4
前へ
/107ページ
次へ
 彼が言う通り、鍋の中には皮を剥かれて一口大サイズに切られたジャガイモがぐつぐつしている。そろそろいいだろう、と彼はお湯を捨てて芋を暫く転がした。水分を飛ばしているらしい。  そして暫くの後それをボウルの中に上げると、まだ熱い状態ですりこぎを用いて潰し始める。 「冷ましてから潰した方が良くない?熱いよ?」 「と、思うかもしれないが、これは熱いうちにやった方がいいのだ。ペクチンがねばねばになってしまって、妙な粘り気が出てしまうのでな」 「ぺ、ぺくちん?」 「すりこぎと、それからヘラでしっかりと潰しておく。その状態で……そうだ、おぬしは扇風機を出しっぱなしにしているであろう?それを使おう」 「え?う、うん……?」  彼はささっとジャガイモを潰すと、パソコン台の前に置かれていた椅子を持ってきてその上にジャガイモの入ったボウルを乗せた。  さらに、その前に扇風機をセッティング。強で設定し、ぶおーっと風を当て始める。 「本来ならば自然に粗熱を取るのが良いのだが、おぬしの出勤時間もある。調理時間は、ある程度短縮できるものは短縮した方がいいのだ。これで冷めるのが早くなるぞ。……ところで小夏よ、いつまでもパジャマのままでいいのか?」 「う、うっさいよ!」  思わず反射的にツンデレてしまったが、まったくその通りである。慌てて着替えを持って洗面所へと向かった。脱いだパジャマを洗濯機に突っ込んで、ひとまず回すということをしなければいけない。不器用すぎる小夏も、流石に一人暮らしである以上洗濯と掃除はできるのだ。まあ、洗濯は衣類を突っ込んでおまかせスタートを押して、洗剤と柔軟剤を入れるだけの簡単なお仕事なのだが(どっちかというと、干したり畳んだりといった作業が面倒くさい)。 ――あいつ、本当に私のご飯作ってくれるんだ。しかもポテトサラダなんて、ここ何年も既製品しか食べてないのに。  小夏が一人暮らしを始めたのは大学を卒業してからのこと。それまでは実家で親と暮らしていて、朝ご飯も昼ごはんもみんな母がお弁当などを作ってくれていたのだった。  あの頃の自分は、毎日いろんな意味で忙しすぎて、母が朝食を作る風景なんてちゃんと見ていなかったように思う。そして、作って貰ったお弁当を引っ掴んで学校に行く、そんな日々が続いていた。果たしてちゃんと“ありがとう”を伝えたことが何度あったか。  今ちらっとアリエルの料理を見ていて思ったのである。一体、彼女はあの頃小夏よりどれだけ早く朝起きて、料理を始めてくれていたのかと。そして、毎日ちゃんと違う朝ごはんが出て、お弁当があって――どれだけ小夏の栄養バランスを考えて工夫してくれていたのかと。 ――一人暮らししてる今だからわかる。……朝の料理が、どんだけ大変だったのかが。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加