<4・それはまるで恐怖政治。>

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 ***  そもそも、小夏はこの会社に入ってまだ日が浅い。卒業後、新卒の時は別の会社に就職したのだが(かなりの就職難だったこともあり、三十五件受けてやっと受かった会社だった。それでも他の友人らよりはマシな状況だったと知っている)、その会社が倒産。  仕方なく新しい就職先を探して見つけたのが、今のトクナガ不動産だった。不動産会社としては全国三位の規模であり、全国に支店のある大手企業。残念ながら正社員で雇って貰うことはできなかったが、契約社員として一定期間勤めれば正社員への昇格も可能だと記されていた。  さらに残業は、月十時間以下。完全週休二日制、自宅から一時間以内にある会社。オフィスカジュアルでいいのでスーツを着る必要もなし。給料も、初任給で手取り月二十六万なら悪くないだろう。そう、実際に仕事を始めてみるまでは小夏もそう思っていたのである。  だが、実際は。 ――私、事務の仕事で雇われたはずだったのに。  営業事務――つまり、営業を行う人達のサポートをする事務職として仕事を始めたはずだった。しかし、一カ月くらい仕事をしたところで急に部長から“これからは皆さんにも少しずつ営業の仕事を覚えて貰いますからね”と言われたのである。何で?と同時期に入った事務員たちはみんな困惑した。営業の仕事をやるなんて、誰も聞いていなかったからである。しかも、不動産販売系の営業は、いくつか資格が必要なのではなかっただろうか。  その時点で、この会社はおかしいのでは?と誰もが思い始めたことだろう。  そもそも残業代がおかしい。事務仕事だけやっていた時から、妙に計算があわないのである。明らかに月十時間どころじゃなく残業しているのに、給料明細には月三時間などと記載されていたりする。タイムカードできちんと打刻しているはずなのに、データが反映されていない。  そして、営業部長である大山美枝子が大問題だ。入って暫くした後に、美枝子と小夏、それから同期数人が居酒屋に呼ばれたのである。美枝子が居酒屋でご飯をご馳走してくれるというので、御相伴にあずかった形だ――まあ、上司に誘われてしまって断れる立場でなかったというのが大きな理由だが。月曜日から遅くまで飲みなんてしんどい、と思うものの、誰もが断れずに参加。
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