<4・それはまるで恐怖政治。>

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 半年経てば取らせてくれるはずの有給休暇も、結局ほぼ使わせて貰えずじまい。風邪などで休んだら、それを代休ということにして土日に出ろと言ってくる始末。  その上、残業が残業としてほぼ計算されていない。小夏も薄々気づきつつあった――自分がブラック企業に捕まったらしい、といことに。 ――でも、他にこんだけお給料貰える仕事なんかないかもしれない。私みたいな根暗なコミュ障、他の会社で雇ってくれるかどうか……。  ろくにスキルもない。資格もない。長所と言われても全然、自分で上げられることが何もない。  ただでさえ、新卒の時の就職活動では苦労しているのである。また転職なんてことになって、明るい未来を想像できるほど小夏はポジティブな性格ではないのだった。 ――どう、しよう。  そんなわけで。  小夏は今日も、契約を一件も取ることができないまま帰宅したというわけである。午前中のどうにか内見に取りつけたお客様がいたものの、前の坂道が、道路の見通しが、という細かいことが気になるお客さんに別の提案をすることも押し通すこともできず、結局“なかったことにしてください”ということで終わってしまった。  この仕事は、押しが強くなければやっていけない。自分には、どう見ても向いていない。 ――今月も、全然契約取れなかったら。本当の本当に、クビにされちゃう。お母さんとお父さんにも心配かけちゃう。  両親には、新しい会社も順調だと嘘をついている。営業に回されたということさえ話せていないような状態。彼等に心配はかけたくなかった。なんとか頑張って、この仕事を続けられるように努力しなければと小夏は必死であったのである。  今日も帰宅は午後八時半。十時を超える日もあるのでまだマシな方だ。ふらつきながらもアパートのドアの前に立った小夏は、シチューのいい匂いが漂ってくることに気が付いた。 ――あ、そうだ。……帰りますって連絡したから、アリエルがシチュー作って待っててくれたんだ。  ドアを、開ける。 「ただいま」  いつもなら空しく響くだけの空間が、明るい。キッチンからひょっこり顔を出す、緑色の頭の青年。 「お帰り!シチューを丁度温め直していたところだ、手洗いしたら座ってくれ!」 「アリエル……」  部屋の空気が、温かい。出逢ったばかりの居候とはいえ、待っていてくれる人がいる。気付けば、小夏の頬をほろり、と涙が伝っていた。 「え、え!?ど、どうしたのだ小夏、小夏!?」  自分でも馬鹿だなと思う。  アリエルの腕に縋りつき、声を上げて泣きだしてしまったのだから。
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