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「そもそも、ざっと調査させてもらったが……この惑星の科学技術は、俺の母星より下であると思うのだ。警察が来たら俺は豆粒大になって逃げるので、多分捕まえられないと思う。というか」
ちらり、と彼は部屋を振りかえって言った。お世辞にも綺麗とは言えず、服はあちこちに脱ぎ捨てられ、本棚には同人誌がたっぷり詰め込まれ、壁にはイケメンキャラクターのポスターががっつり貼られまくっている部屋を。
「恥ずかしい同人誌、というものが大量にありまくるこの部屋をこの国の警察に見られるのは、おぬしの方が困るのではないか」
「う゛」
「さらにお節介ながら言わせて貰うと、お世辞にもこの部屋、綺麗とは言えな」
「ううううううううるさい!」
どうしよう、自分ツッコミキャラではないはずなのに。さっきから大声でツッコミしたくなるキーワードが多すぎる!
――た、確かにそうだけど!この部屋に警察上げるなんて恐ろしくて……というか一生の恥になりそうで嫌すぎるんだけど!!
このアパートに住み始めてからこの方、のんびりと自由すぎる一人暮らしを満喫してきた小夏である。はっきり言って、客人を呼ぶ想定はしていない。実家の父母がこっちに来たがった時は何度もあったが、そのたびに“私が帰省したいから!”で全部押し通していた。正月も夏休みも、友人知人はおろか家族さえこの部屋に上げたことがないのだ。
というか、一人で寝るのが精いっぱいのスペースしかないので、宿泊したいと言われても困るというのも事実なのだが。
「そ、そんな言葉で誤魔化されないんだから」
面倒になるのは困る。しかし、だからといって得体のしれない自称異星人を家に置いておくのはもっと困る。小夏がしどろもどろになった、まさにその時だった。
ぐうううう。
なんとも空気を読まない、間抜けた音が。
小夏は顔が茹蛸のように熱くなるのを感じていた。ずるり、と眼鏡がずり落ちる。現在時刻、午後の八時。晩御飯は食べないで家に帰ってきてしまっているのだ。当然、空腹でないはずがなく。
しかしだからといって、このタイミングで腹の虫が泣かなくたっていいものを!
「なるほど、おぬしは腹が減っておるのだな」
すると、目の前の顔はいいけど天然疑惑のある異星人は、私の荷物をさっさと受け取るとリビングに持っていってしまった。そして、端に立てかけてあったテーブルを部屋の中央にぽすっとセッティングすると、その前に私を座らせる。
「ちょっとそこで待っていてくれ。この家に住まわせて貰う礼だ、今夜は俺がご馳走しよう!」
小夏は口をぽかーんと開けて思った。
いや、まだ一言も、この家に居候させてあげますなんて言ってないんですが。
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