<1・帰ってきたら居候が増えていた。>

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 ***  座らされたはいいものの、帰ってきて手洗いもしてない状態である。とりあえず一度立ち上がると、手洗いとうがいをしてキッチンに戻った。さっきからがさごそと冷蔵庫などをいじっていたようだが、小夏は料理などほとんどしない人間である。引っ越してきた時にフライパンやフライ返し、おたまや包丁といった調理道具は一応買い揃えたのだが、結局殆ど使われないまましまわれているという状況だ。  つまり、道具はあっても食材はない状況だ、と思っていたのだが。 「座って待っていてくれればいいぞ!」  彼はどこから取り出したのか、玉葱を半分に切ってみじん切りにしている。しかも、その前にはウインナーの入った袋が。 「実は、この地球の食材をひとしきり買って、母星に帰るところで墜落してしまったのだ。荷物の類は全部引き上げたので、そなたの家の冷蔵庫につっこませてもらった。傷んでしまうのはよろしくないのでな!」 「料理、できるの?」 「最低限レベルだ。ただ、地球には美味しいものがたくさんあると聞いて、わざわざ旅をしてきたのである。地球の料理の勉強を始めたところだった。というわけで、今回はさっさとできて美味しい、俺が一番最初に知った料理をご馳走しようと思っている!ああ、お茶は今日はペットボトルのものでいいだろうか」 「あ、うん……それでいいけど……」  見知らぬイケメンに、勝手にキッチンを触らせてしまっている。本当にいいのか、これで。唖然としていたが、いかんせん口を挟む余地がほとんどない。  そうこうしているうちに、彼は玉葱と細かく刻んだウインナーを、温めて油をしいたフライパンの中に突っ込んだ。 「本来はチキンライスであるから、鶏肉を使うべきなのは百も承知。しかし今は食材が足らぬから、ウインナーで代用するぞ」 「ウインナーでもいいんだ……?」 「最終的に大切なのは美味しくできることだ。俺が見たレシピによると、チキンライスには人参を入れるのも美味しいとあった。今度試してみることにしよう」  玉葱が飴色になってきたところで、彼は電子レンジの中からご飯を取り出した。小夏がしょっちゅうお世話になっている、チンするだけでできるご飯である。 「本当は炊き立てのご飯が良かったが、この家には米も炊飯器もなかったのでな。今回はこれで行くぞ」  いちいち小夏に宣言するのは律儀な性格であるがゆえか。彼は具材にケチャップ、塩コショウでささっと味付けすると、そこにご飯を投入して混ぜ合わせる。そこに、さらに塩コショウを追加投入。小夏は目をまんまるにしてその光景を見ていた。なんといっても、幼い頃から不器用な質である。母が料理をするところさえ、今までちゃんと見てなかったほどだ。 ――チキンライスって、こうやって作るんだ。  あっけに取られている小夏の前で、料理はどんどん進んでいく。出来上がったチキンライスをボウルに一度引き上げた彼は、卵の用意を始めた。  卵四個を器用に片手でどんどん割っていくと、ささっと箸でかき混ぜる。そこに塩つまみを入れるのも忘れない。  そしてざっと焦げをキッチンペーパーでふき取ったフライパンを温めて、油をいきわたらせる。そして、まあるくなるように卵を流し込んだ。 「真ん中部分を箸でかきまわして、火が通りやすくなるようにするのがコツなのだ。どうしても周りから固まっていってしまうからな」  卵が半熟状態になったところで、彼は火を止めて、真ん中部分にさっき作ったチキンライスをつっこんだ。その上で、端とフライ返しを使って器用にひっくり返していく。  あっという間に、赤いご飯が卵の皮に包まれて、見慣れた形状が出来上がっていく。黄色の半月状。それをお皿にひっくり返し、ケチャップをかければ完成。 「よし、出来たぞ!オムライスだ!」  さあ召し上がれ、と。  彼は素晴らしい笑顔で、小夏にお皿を差し出したのだった。
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