Phase 00 眷属

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 「分かった。名誉毀損(きそん)として文潮出版を訴えれば良いんだろ?それなら俺の専属弁護士がいる。ヤメ検ながら凄腕の弁護士だから絶対勝訴出来るだろう。」  志津都龍悟は自信に満ち溢れた表情をしていた。  己の右腕に刻まれた龍の刺青(タトゥー)。  右の額の傷。  失われた右手の小指。  それこそが、志津都龍悟の堅気(かたぎ)としての姿だった。  志津都龍悟は指定暴力団山谷組の若頭である。  若頭とは暴力団の中で組長の次の地位であり、組長とは擬似的な兄弟関係の元に成り立っている。  よく「(さかずき)を交わす」という言葉を聞くかもしれないが、暴力団にとっては兄弟分や親分子分などの約束を固めるために使われる。昔の暴力団は組長の血液を飲んでいたらしいが、最近では普通に酒を飲むというケースが多い。  剛田万次郎と志津都龍悟が兄弟の盃を交わしたのは今から約10年前である。  当時、志津都龍悟は就職難に見舞われており、就職しても3ヶ月足らずで辞めてしまうということが多かった。  そんな時、剛田不動産という不動産会社に就職した志津都龍悟だったが、オーナーを務める剛田万次郎は山谷組という京阪神最大の暴力団の組長という裏の顔を持っていた。偶然裏の顔を見てしまった志津都龍悟は剛田万次郎から脅迫されそうになるが、ある条件の元に見逃してもらえることになった。それが「志津都龍悟を山谷組の若頭にする」ということだった。  その時に志津都龍悟は右手の小指を切り落とし、剛田万次郎に忠誠を誓うことになった。  「剛田さん、これで俺は兄弟分になるんですね。」  「あぁ、そうだ。今日からお前は俺の弟分だ。」  己の血に染まった盃。  床に落ちた右手の小指。  何かと契約する時に犠牲が付き物とは言うけれども、その犠牲はあまりにも大きかった。その犠牲の元に、今でも2人は兄弟として成り立っているのだ。  「なぁ、龍さん。俺はこのままで良いんでしょうか。もし俺が警察に捕まったら山谷組も芋づる式に捕まらないか心配です。ただでさえ最近警察からマークされているような気がするのですが・・・。」  「心配するな。今回の件は俺が弁護士を通じて文潮出版を訴える。だからノブは大丈夫だ。お前は吉竹興業の稼ぎ頭だろ?これでも渡すからいい飯でも食え。何なら沖縄の別荘で羽を休めてもいいのでは?」  そう言って志津都龍悟は鳥田信康に大量の札束を手渡した。その金額はおおよそ100万円だろう。  こうして大量の金で手(なづ)けて己の眷属として引き込む。それが山谷組のやり方なのである。
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