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Phase 01 チキン
大渡秋彦は捜査一課から捜査四課に転属されてきたばかりの刑事である。年齢は29歳と刑事としては若手であり、捜査一課では数々の難事件に関わってきた。特に先日発生したとある少女誘拐事件は発生から約一週間で無事に少女を保護。秋彦は大手柄を挙げることになった。
しかし春は異動の時期である。大渡秋彦もまた異動をすることになり、今までの刑事事件を主に扱う捜査一課から暴力団関連の事件を扱う捜査四課への異動が決まった。
大阪府警の捜査四課は下手なヤクザよりも怖いとの評判であり、特に山谷組関連の捜査では数々の功績を挙げている。その分刑事も強面が多い。中にはガサ入れの際にドスの効いた声で暴力団を威嚇する刑事もいるという。
「どうして僕がマル暴なんかに・・・。」
捜査四課に異動した大渡秋彦はビビっていた。それもその筈。少年をそのまま大人にしたような性格の秋彦にとってはマル暴の刑事が全員暴力団に見えたのだ。
そんな中、ある刑事が声をかけてきた。
「君が新入りの大渡刑事だな。僕の名前は伴正義だ。恐らく今回のガサ入れで君を研修させてもらうことになる。今後とも宜しく頼む。」
黒縁の度入り眼鏡にさっぱりとした髪型。インテリゲンチャな容姿。
それが伴正義の刑事としての姿だった。
「伴刑事、今回の芸能事務所へのガサ入れですが・・・。正直新入りの僕に務まるか不安です。」
「そのための先輩刑事だろう。今回の吉竹興業へのガサ入れは僕が担当する。君はその様子を見守りつつ怪しい様子があったら証拠を押収していくんだ。」
「伴刑事、分かりました。」
後日。
吉竹興業へのガサ入れを行うことになった。
次々と押収されていく膨大な資料。
その時、大渡秋彦はある資料を見つけた。
「この帳簿、何かがおかしいですね。怪しい企業の明細書か何かでしょうか。」
「そうだな。我々はヤクザのフロント企業を多数網羅しているが、このような会社名は見たことがない。これは僕たちの方で押収してさせてもらうよ。」
「分かりました。後はこのダンボールを・・・。」
その時だった。
「コラァ!ワシの私物に触るなッ!」
ドスの効いた老人の声に、秋彦は思わず竦み上がった。
丸いサングラス。
口に咥えられた葉巻。
銀の装飾が施された杖。
マフィアのような風貌をした老人。
それが、芸能界のドンであり吉竹興業の会長・尾崎昭の姿だった。
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