Phase 01 チキン

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 「100点をつけると身内に甘いと言われるし、50点をつけると厳しい、パワハラと言われる可能性が高いからな。70点から80点ぐらいが丁度良いんだよ。」  「なるほど。何かの参考にしたいと思います。」  「しかしこれだけは言っておきたい。本格的に検挙をするとなると100点満点じゃないとダメだ。95点では許されないんだ。」  「100点満点か。僕は小学校の時の最高点が98点だったな。だからこそ100点満点を取れるように頑張りたいと思う。」  「そうそう、刑事としてその心構えが大切だ。君はヤクザを恐れていると聞いていたが、伸び代は十分ある。きっと良いマル暴の刑事になれるよ。」  「伴先輩、分かりました!僕、頑張ってみます!」 大渡秋彦は少し(ぬる)くなったブラックコーヒーを一気に飲み干した。なんだか、力が湧いてくるような気がした。  「ニュース速報です。吉竹興業は自社に対する名誉毀損として週刊文潮を出版している文潮出版を提訴しました。現在、吉竹興業は関西を拠点とする指定暴力団である山谷組との付き合いが示唆されており、週刊文潮ではこの数週間に渡って特集記事を執筆していました。今回の提訴はその記事に関するものと思われます。」  ニュース速報が流れるテレビの前で、志津都龍悟は不気味な笑みを浮かべていた。  「後は吉竹興業が勝訴すればこちらのモノだ。」  「そうだな。この裁判に勝てば今回の件で我々山谷組が表に出ることはまず無い。」  「それはどうだろう?仮にこの山谷組にエスが紛れ込んでいたらどうする?」  「エスか。そんなモノ、幻想にしか過ぎない。」  エスとは暴力団に忍び込んでいる警察官のことを指す。その隠語はスパイの頭文字であるSから来ている。  かつては山谷組にもエスが忍び込んでいたと言われているが、とある事件の大阪府警によるガサ入れの際に剛田万次郎が直に抹殺したのでその存在は露として消えてしまった。  「まあいいだろう。これは褒美のシャブだ。」  剛田万次郎から差し出された注射器には、覚醒剤が入っていた。  志津都龍悟は己の静脈に針を刺した。  心臓の鼓動が早くなる。  瞳孔が花のように開いていく。  ――そして、志津都龍悟は自分の世界へと入っていった。
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