Phase 02 ジキルとハイド

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Phase 02 ジキルとハイド

 鳥田信康は大阪のお笑い界の頂点に立つ芸人であり、通称「お笑い王」と呼ばれている。その分人脈も多く、後輩芸人から果てはとあるIT企業の社長まで数多(あまた)のコネクションを持っている。  一方で不動産投資や飲食店のオーナーを勤めることもあり、ミナミに高級クラブや飲食店を数多く持っている。更に沖縄に広大な別荘を持っており、度々後輩芸人を招待している。  しかし、黒い付き合いの噂も絶えない。実際に鳥田信康と山谷組との付き合いが噂されたのは今から約15年前であり、沖縄に構えている(くだん)の別荘も山谷組から借り上げた土地なのではないかと言われている。  その頃の鳥田信康というと人気絶頂期であり、自分が司会を勤めるクイズ番組で逸材を発掘してはアイドルとしてデビューさせていた。さらに、別の局のクイズ番組ではその話芸の巧妙さから春秋の風物詩として名を馳せていた。しかし、ある時そのクイズ番組の楽屋挨拶でとある芸人に対して暴力団(まが)いの挨拶をしていたとゴシップ誌にすっぱ抜かれてしまった。その時に山谷組との付き合いが明るみに出てしまい、ネット上では彼に対する誹謗中傷の嵐が絶えなかった。  もちろん、鳥田信康はこのことを否定しており、後輩芸人から件についてイジられると鬼の形相の顔を見せていたともっぱらの噂である。  そして、彼に対して止めを刺すようにとあるゴシップ記事が世間を騒がせることになる。  「独占入手!鳥田信康と山谷組の黒い付き合い」  このゴシップ記事が掲載された週刊文潮は一瞬で売り切れ、週刊誌では異例の増版という対応を取り、更にはネット記事に全文掲載という措置まで取られた。それだけ鳥田信康の世間体に与える影響力というのは強いものだったのだ。  「この記事を切っ掛けに我々捜査四課が鳥田信康の自宅を捜査した。もちろん脈アリだったよ。この写真がすべてを示している。」  亀田恵介(かめだけいすけ)警部が一枚の写真を僕に手渡した。  そこには鳥田信康と共に一人の男性が写っていた。  強面の顔。  深く被った帽子。  手には葉巻が握られ、満面の笑みでピースを浮かべていた。  ――これが、京阪神の闇の帝王である剛田万次郎の姿である。  僕は亀田警部にある質問を投げかけた。  「亀田警部、この写真は合成とかではなく本当の写真なのですか?」  「ああ、残念ながら本当だ。鳥田信康と山谷組が裏で繋がっているのは紛れもない事実だ。大阪を拠点にしている芸人として、これはあってはならないことなんだ。」  「なるほど。ならば僕たちでなんとか黒い糸を切らないと。」  「そうだな。伴君はマル暴としてよくやっている。今回も検挙してやってくれ。」  「しかし彼は沖縄に別荘を持っている。逃げ出さないか心配だ。」  「だから、沖縄から逃げ出す前に僕たちで捕まえないといけない。」  ――亀田警部の言葉に、僕は強く拳を握った。
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