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ある夜、僕はミナミで見回りをしていた。
夜のミナミというのは魑魅魍魎が跋扈しており、半グレ集団や暴力団がその辺を彷徨いている。
もちろん、中には有益な情報を齎してくれる人もいる。それはクラブやスナックのママなのだ。
「あら、伴くん。今日も見回り?」
「そうだ。トミちゃん、鳥田信康について何かいい情報は無いかな。」
「うーん・・・。今の所私から言える情報は特に無いなぁ・・・。ところで一杯飲んでく?」
「本当なら飲みたいところだが見回り中だ。またの機会にするよ。」
「もう、伴くんったらぁ。」
米倉都美子はミナミのクラブ「天道虫」のホステスだ。僕とは小学生の時からの幼なじみであり、まさか大人になってお互いが裏社会を追っていく中で繋がるとは思ってもいなかった。小学生の頃の成績は僕より優秀で、将来はシステムエンジニアを目指していた。しかし中学生の頃に母親を喪った都美子は、父親から虐待を受けるようになり、高校の頃には事実上の一人暮らしを行っていた。そして、18歳の時に高校を中退してキャバクラで働くようになった。もちろん己が生きていく為である。
ある日、都美子はとある高級クラブからヘッドハンティングのオファーを受けることになった。それこそがミナミでも指折りの高級クラブである「天道虫」だったのだ。
それから20年経って、都美子は夜のミナミにおいてなくてはならない人物となった。抱いた男はIT企業の社長から暴力団の組長まで多岐にわたる。
そして、時に僕に対して有益な情報を齎してくれる存在なのだ。
「亀田警部、見回りが終わりました。今日も特に異常はありませんでした。」
「そうか。伴君、ご苦労だった。」
「ところで、鳥田信康について何かいい手掛かりは掴めましたか?」
「いや、こっちも脈ナシだ。あの写真の件以降鳥田信康の自宅は警備が強化されている。もちろん我々大阪府警を遠ざけるためだ。」
「そうですか。なら強行突破で捜査してしまえばいいじゃないですか。」
「そうか、その手があったか。」
「明日、もう一回鳥田信康の自宅を捜査してみましょう。何かが見つかるかもしれません。」
「分かった。伴君、君の言葉を信じるよ。」
「ありがとうございます。」
こうして、僕はその日の見回りを終えた。
見回りの後、僕は改めて天道虫へと向かった。もちろん都美子から大阪府警に流せない情報を得るためだ。
「伴くん、きっと来てくれると信じていたよ。」
「あぁ、大阪府警の刑事としての僕と今の僕は別人だ。言うならばジキルとハイドみたいなモノだと思えばいい。」
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