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ふんわりと甘い
桜の季節になりました。
学校の卒業祝いに、この日は浅草のミルクホールにやってきていました。
この店の看板メニュー、珈琲風味のカステラに羊羹とクリームをはさんだシベリアは、壱の大好物です。
「なんで魔女さんが死ななかったかって?」
「さぁ、僕にもわからないなぁ」
三角形のスイーツを口に運びながら、壱は首をかしげ、それからにっこり。
「愛の力ってやつかもね」
珈琲を飲む手を止めて、それはなに? と魔女は訊き返します。
「魔女さんにも、わからないことがあるんだね」
壱は知っているというのでしょうか。
心外です、この子よりもずっと長生きなのに。
むっと尖らせた唇を、魔女がひらいたときでした。
フォークに刺さった珈琲味のスポンジが、口のなかへ押し込まれます。
びっくりしつつも、おとなしくシベリアを食べる魔女を、壱は頬杖をついて見つめながら、
「それはね、クリームよりも甘いものだよ」
と、蕩けるようにわらったのでした。
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