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幸せになるために
魔女だというだけで、火あぶりにされそうになった恐怖は、何百年たってもおぼえています。
──わたしは、生きてはいけない存在なのだろうか。
生きる意味も見いだせないまま、日本へ逃れてきた魔女は、長崎の出島に引きこもりました。
そこなら、魔女も安心できたからです。
男性ばかりが死にいたるはやり病を『治す』代わりに、魔女たちは保護されました。
鎖国は、そんな彼女たちを異国から守るための政策だったともいわれています。
時代はながれ、時は大正。
文明開化によって様がわりする街並みのなか、蒼い瞳をした魔女が出歩いても、そう不思議がられることはなくなりました。
けれど魔女は、祖国にもどりたいとは思いませんでした。
病を治して感謝されても、どうしたってじぶんは魔女なのです。人には、なれないのです。
孤独な日々に、とうとう疲れ果ててしまいました。
『生きること』と『ただ息をすること』は、まったくの別物なのです。
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