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「どうせならいっそ、ほんとうに黒猫になる魔法をかけてよ」
「そうしたら、あなたのそばにずっといて、はなれないのに」
壱も壱でした。
彼は学校の成績でもいちばんを取るほど頭がよかったのですが、魔女のことになると、とたんにまわりが見えなくなってしまうのです。
夜毎寝床に壱が忍び込んでも、魔女は軽くなだめるだけで、すぐに寝てしまいます。
何百年も生きる魔女にとって、壱は赤ん坊のような存在なのでした。
「ねぇ、魔女さん」
「いつになったら、僕のこと見てくれるの?」
「あなたは名前を教えてくれないし、呼んでもくれない」
「それなのに、どうして僕を助けてくれたの?」
「愛情を注ぐだけ注いで、受け取ってはくれないの?」
「……ひどいよ」
「僕ばっかり、こんな気持ちで……ずるいよ」
夜に消え入る壱のこころを、魔女は知りません。
そして壱も、魔女のこころがわかりませんでした。
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