6人が本棚に入れています
本棚に追加
「ごめんなさい……怒らないで」
「いいこにするから、嫌わないで……おねがい」
壱の黒い瞳は潤んでいて、魔女の袖を引くさまは、おさないこどものようです。
体調をくずして、精神的にも弱っているのです。
魔女はひとつ息をついて、うなだれた壱の頭をそっとなでました。
「……え、魔女さん」
おどろいた壱が顔をあげるより先に、寝台へ横になります。
じぶんがここにいれば、壱も眠ると思ったからです。
「魔女さん……魔女さん」
「いっしょに寝てくれるの?」
「うれしい、うれしいな」
「ありがとう……魔女さん」
壱は涙ぐんで、抱きついてきます。
魔女は赤ん坊をあやすように、とんとん、と背中をたたいてやります。
弱っているのだから、特別です。
「ねぇ、魔女さん、あなたは僕にとって、特別なひとだよ」
魔女のこころを読んだわけではないでしょうけれど、そんな仕返しをした壱は、華奢な腕のなかで、しあわせそうにまぶたをおろします。
壱が寝入ったのを見届けて、魔女はしずかに、寝台を抜け出したのでした。
最初のコメントを投稿しよう!