魔女のねがい

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「ごめんなさい……怒らないで」 「いいこにするから、嫌わないで……おねがい」  (いち)の黒い瞳は潤んでいて、魔女の袖を引くさまは、おさないこどものようです。  体調をくずして、精神的にも弱っているのです。  魔女はひとつ息をついて、うなだれた壱の頭をそっとなでました。 「……え、魔女さん」  おどろいた壱が顔をあげるより先に、寝台へ横になります。  じぶんがここにいれば、壱も眠ると思ったからです。 「魔女さん……魔女さん」 「いっしょに寝てくれるの?」 「うれしい、うれしいな」 「ありがとう……魔女さん」  壱は涙ぐんで、抱きついてきます。  魔女は赤ん坊をあやすように、とんとん、と背中をたたいてやります。  弱っているのだから、特別です。 「ねぇ、魔女さん、あなたは僕にとって、特別なひとだよ」  魔女のこころを読んだわけではないでしょうけれど、そんな仕返しをした壱は、華奢な腕のなかで、しあわせそうにまぶたをおろします。  壱が寝入ったのを見届けて、魔女はしずかに、寝台を抜け出したのでした。
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