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魔女は医者として、生計をたてていました。
ですから、壱をむしばむ病が結核であることを、見抜きました。
そうなれば、じっとしているわけにはいきません。
魔女協会へ連絡を入れたあと、鞄を引っさげて、『官立東京高等男学校』へと急ぎました。
発症者がだれなのかを調べる時間は、ありません。
とにかく治療が必要な男子学生を、片っ端から『治して』いきました。
学生だけでなく教員にもおこなわれた診察が終わるころには、すっかり日が落ちていました。
「……ねぇ、魔女さん」
ぐったりと疲労をかかえ、魔女が帰途についたときのことです。浅草の街で、見てはいけないすがたを見てしまいました。
壱が、そこにいたのです。
「僕にはおとなしくしてろって怒ったくせに、こんなところでなにしてるの?」
往来の人ごみを縫って、大股でやってきた壱。
その表情も、声も、魔女も見たことがないほど冷たいものでした。
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