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雨垂れの夜
ぱらん、ぱらん。
真っ赤な和傘に、水のつぶがぶつかって、はじけます。
「さわるなよッ!!」
雨のふりしきる、ある夜のことです。
ひとけのない路地裏で、魔女は、男の子をひろいました。
「ぼくはどこにもいかない! だれも、しんじたりなんか……っ!」
男の子はがむしゃらになって叫び、あばれています。
からだがぬれてご機嫌ななめな、子猫のようです。
ざぁざぁと泣きやまない、真っ黒な空のもと。
魔女はうっそりとわらいます。
「さぁて。この子、どうしてやろうかしら」
くるりと和傘がまわって、蛇の目がうずを巻きます。
極悪非道なおこないが、幕をあげようとしていました。
なんて魔女が余裕でいられたのも、はじめの数日だけ。
「おはよう、魔女さん。ごはんできてるよ」
「今日はどこへ行くんだっけ? 僕もついてっていいでしょ?」
「魔女さんってば、きいてる? ねぇ」
「ねぇねぇ、ねーえ」
──しくじったわ。
人間がこんなにはやく成長するだなんて。すっかりサッパリわすれていました。
青年となった男の子が、猫のようにしなやかなからだを近づけてきます。
「だめだよ、魔女さん」
「僕をひろったのは、あなたなんだから」
「最後までちゃんとお世話して……ね?」
頬ずりをするさまは、甘える黒猫のよう。
──しくじった……やらかしたわ。
もう何度目かもわからないため息をついて、魔女は頭をかかえます。
彼女が、ひとつだけ失敗をしたとするなら。
それは、この日本国へやってきたことでしょう。
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