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「あたし、復興工事なんて見ても何もわからないわよ。行く意味あるの?」
「お嬢様、ダイバー村は我がダオリーブ家の領地であります。復興工事の現状をご覧になり予算や資材の配分を考えるのも貴族の役割でございますよ?」
「面倒臭いなぁ…… ねぇ? カルルマン一人で行ってきなさいよ。あなた、この家の財政を管理してるんだから、村の予算配分ぐらい出来るでしょ?」
カルルマンは含み笑顔を浮かべながら、少女を鏡台に座らせた。そして、化粧を施しにかかった。少女の寝起きの顔が白粉と頬紅と口紅で見目麗しく整えられていく。
「お嬢様、私に出来るのはこの『家』のことのみでございます。村の予算ともなれば『政』の領域。私如き執事の身では荷が重うございます」
少女は鏡越しに疑いの目をカルルマンに向けた。少女はカルルマンが何でも出来ることを知っており、今カルルマンが言ったことを慇懃無礼な謙遜だと思うのであった。
「ねぇ、カルルマン? あなたならお城に行って『政』を行うこともできるし、千の軍勢を手足のように扱う軍師にもなれるし、兵になれば万人から讃えられる英雄にもなれると思うのよ。あなたはこんな『ダオリーブ家』なんて地方貴族の執事で終わっていい人間じゃない。もっと多くの民のために役に立つべきだと思うのよ」
しかし、カルルマンを首を横に振った。
「いえ、私はこの『ダオリーブ家』に生涯仕えると心に決めた身。他に行くなどは考えられません。何より、お嬢様との主従契約を破ることはなりません」
「カルルマン? もう『あのこと』なら気にしなくていいのよ? あたしだって気まぐれだったんだし」
「それでも、私にとっては唯一受けた愛。その愛に報いる為にはこの人生を百回繰り返そうと、とてもではないが足りるものではございません」と、カルルマンが述べたところで少女の化粧が終わった。少女は見目の麗しい自分の顔を見て満悦至極であった。
「あなた、本当にお化粧も上手いのね。お城の化粧係がするみたいなものよ」
「お嬢様の為にお化粧の練習を欠かさないだけです」
カルルマンは少女の肩を軽く叩いた。少女はスッと立ち上がり、部屋の扉に向かう。カルルマンはすかさすに扉へと向かい、音もなく扉を開け、手を少女に差し出した。
「お手を」
「よしなに」
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