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「ならせめてベッドの中に入り、目を閉じるだけでも。これだけでも違いますよ?」
「カルルマン? あたし、もう少しだけ夜景見たいから先寝てていいわよ」
「いえ、お嬢様が寝るまでは私も眠りません。執事と言うものはお嬢様の就寝を見届けてからやっと眠りに就くものです」
「執事って面倒なものね」
「それが、執事ですから」
「じゃ、眠くなるまで少しお話しましょうか」
「仰せのままに」
「この国、どう思うかしら?」
「ネイバーヘイムでございますか? 特段考えるようなことは」
「確かに街は栄えてる、でも、この為にどれだけの『鉱石人』を騙してきたかと考えると…… 確かにここのアクセサリーはいいものだけど、ああやって手に入れたものだと考えると複雑な気分になるのよね」
「お言葉ですが、商売と言うものは『安く仕入れ、高く売る』ことで得をするものです。これがネイバーヘイムと鉱石人達の間で行われただけのこと。お嬢様が気になさることではありません」
「……厳しいね」
「この世界各国、よくあることでございます。搾取するか、搾取されるか。それだけのことでございます」
「ねぇ? 魔王を倒せば変わるのかな? だって魔王って悪いことの根源みたいなものでしょ?」
「多分ですが、変わらないでしょうね」
「じゃあ、魔王を倒すってどういうことなの? 搾取する悪い人達も守ることなの?」
「ええ、そうなりますね。いい人も悪い人たちも守ることになります。魔王はこの全てを打ち砕こうとする巨悪の根源です」
「人に…… 守る価値なんてあるのかな?」
「お嬢様。失礼を承知で申しますが…… お嬢様は純粋過ぎます。更に失礼を承知で申し上げますが…… お嬢様は元は貴族で搾取する側であったのですよ。気にすることはおやめ下さいませ」
「そうか…… あたし、単なる世間知らずの箱入り娘だったんだ。ダオリーブ家の貴族としての仕事はしてたから世間は知ってるつもりだったけど、全然知らなかった。これじゃあ、あたし哀れな宮廷道化師じゃない!」
モチラナは涙目になりながらベッドに潜り込んだ。何も知らない箱入り娘である自分の情けなさが悔しくてたまらずに枕を濡らしてしまう。
カルルマンは「明日受ける洗礼よりも、厳しい洗礼を受けてしまったようですね」と、思いながらモチラナの嗚咽が止まるまで見守るのであった……
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