セーフワードは、愛してる。

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 帰っていく患者と付き添いの人間を、俺はその場で見送った。白いテーブルの上には、彼らが置いていった分厚い茶封筒がある。中身は二百万といったところか。口止め料も含んでいるのだろう。別段金に興味があるわけでは無いから、そのまま無造作に持ち上げて、適当に棚へと封筒のまま放り込んでおいた。  ここはマンションの一室だ。  看板が無い、無認可のクリニック。俺の職場であり、家でもある。  処置室を掃除してから、俺は居住スペースへと戻り、窓の外を見た。港の灯りが見える。いくつも停泊しているあれらの船舶のいずれかには、今回の『客』達が扱うような非合法の薬もあるはずだ。赤い灯りが点々と光るこの港の夜よりも、この世界はずっと仄暗い。  目を伏せる。瞼の裏には、飛行機避けの赤い灯りがこびりついたままだ。  無機質な赤が、俺は嫌いだ。例えば総合病院の救急の灯りや、救急車のランプなど、冷たい赤は、意識してみれば街の各所に存在している。
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