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インターホンが鳴ったのはその時の事で、俺は思考を振り払い目を開けた。エントランスへと緩慢に振り返る。予約診療などしていないから、突然来る患者は別段珍しいわけではない。俺にとって、患者と客は同じ意味だ。
白衣のポケットからPTPを取り出して、錠剤を三粒、掌にのせる。それを口に含んで噛み砕きながら、俺は外を映し出しているモニターを見る。今口にしたのは、Sub不安症の薬だ。既に慣れたが、薬を飲む時ばかりは、己のSub性を嫌でも想起させられる。
俺は、Subだ。だが、普段はそれを隠して生きている。尤も闇医者の俺の人付き合いなど最低限であるから、滅多に露見するような事は無いのだが。
静かに外を映すカメラへと歩み寄り、マンションの扉の外に立っている人物を見る。そこには前髪を後ろに流している、眼鏡をかけた見知らぬ人物がいた。いかにも高級そうな小物まみれで、裕福そうな出で立ちだ。応対するか、無視を決め込むか。思案していると、再びインターホンが音を立てた。
怪我をしている可能性。
長めに瞬きをしながら検討し、俺は一応話だけは聞いてみるかと決意する。
「はい」
『開けろ』
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