エピローグ

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 赤ら顔の男に、小箱の出所を聞いたところ、王都の役人からもらったとのことだった。その役人は、王都のかなり中枢に近い地位にいる、と言っていたという。  ホントかどうか怪しいもんだ、とシウは思った。 「聞き出せるのこの程度か」  シウは、怯える赤ら顔の男を一瞥した。赤ら顔の男は震えあがった。シウの隣りに立つセルシウスを見て、さらに震えた。 「ころ、殺すのか、グーデンバウムに殺させるのか」  グーデンバウム、というのが肝らしい。残虐非道と聞かされているのだから、彼の手にかかるということは、楽には死ねないことを意味する。とでも思っているのだろう。  シウは小さくため息をついた。 「人は殺さないよ。俺たちが殺すのはモンスター。ハンターなんだからさ」 「ほ、ほ、本当か?」 「本当だよ。でも」  赤ら顔の男が体を震わせた。シウは顔を寄せた。金の瞳が、赤ら顔の男を捉える。 「俺たちに会ったっていう記憶は、上書きさせてもらうよ」  そう言うや、先ほど小箱から流れていたようなぶつぶつとつぶやいているような、何かを唱えているような音を、赤ら顔の男に聞かせた。パーン一族の"言霊"は、グーデンバウムだけに有効なわけではないのである。  赤ら顔の男が夢遊病者のようにゆらゆらし、ついには眠ってしまったのを見届けると、シウとセルシウスはその場を離れた。眠って風邪をひくくらいはいいだろう。この西の山は獣も少ない。放置したからといって死にはしない。  それにシウとしては、赤ら顔の男に同情の念はまったく起きない。セルシウスに勝手をさせたことが、はらわた煮えくりかえるくらい許せないのだから。 「ったく、王都は変なものを作りやがって」  セルシウスの肩に乗ったシウの手には、あの小箱がある。あとで粉みじんに破壊するつもりだ。 「せっちゃん、ごめんね」 「・・・」  セルシウスは軽く頭を上げただけで、何も言わなかった。が、腕を伸ばしてシウの手を取った。 「へ?」 「シウが無事でよかった」 「なんだよ、それ」  シウは笑った。セルシウスの大きな手は温かかった。いつだってほっとした。  二人は頭上で手をつないだまま、しばらく歩いた。 「ああそうだ、せっちゃん」  セルシウスがちらとシウを見た。シウはまっすぐ前を向いたままだった。 「王都へはまだ行かないでおこう。アイツが本当にいるのか、いるとしてどこにいるのか、もう少し確証が取れるまでは、ハンター仕事して暮らそう。いいよね」 「シウに従う」 「もうちょっと自分ってものを持った方がいいと思うよ、せっちゃんはさあ」  シウはそう言ったものの、セルシウスの思考を奪っているのは、パーン一族であり、あの夜に父がかけた魔術なのである。なんて残酷なことを言ったのだろうと、空を見上げた。すでに星が瞬いている。 (せっちゃんになら、殺されてもいいんだけどなー)  シウはそんなことも思った。  ふと、セルシウスが手を伸ばした。  シウはそれに気づいて頭を寄せた。  セルシウスが、シウの頭をそうっと撫でる。 「せっちゃんの考えることは、まったくわからん」  頭を撫でられながら、シウを苦笑した。 ――シウを生かせ。  セルシウスの耳には、今日もあの夜の声が響いていた。
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