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「いつものことながら、なんもわからんのだが……どうだ? うまくいったのか?」
「ああ、完璧だ。いやあ、相変わらずスゴイ威力だね。ほんと一瞬ですべて消し飛んだよ。もう大丈夫だろう」
まるで俺のギャグが滑ったかのようにシーン…と辺りが静まり返る中、困惑気味の表情を浮かべて俺が尋ねると、夜見は驚嘆すら覚えている面持ちで俺のこの能力を褒め讃えてくれる。
傍から眺めていたら「なんのこっちゃ?」としか思えないような、この奇妙な一連の行動なのであるが、夜見のように視える者の目からすれば、今、ものスゴイ現象が俺達の眼前で起きていたらしい……。
「ほんとになんの気配もなくなったね。付近を彷徨ってた無関係な霊も消えちゃったみたいだ……さ、無事、仕事も済んだし帰ろうか。お礼に駅前で一杯奢るよ」
毎度のことだが、なんの達成感もなくただただ消化不良気味に佇んでいた俺に、かたや一仕事終えた感を出した夜見がそう言って声をかける。
ま、仕事も金もない、売れないお笑い芸人の俺としては、こうして臨時収入とタダ酒にありつけるのだから別にいいんだけど……。
「バイト終わりで疲れてるとこ呼び出されたんだ。一杯といわず二杯…いや、三杯は奢ってもらうぜ?」
「ああ、わかったよ。今回はほんと助かったからね。その分、しっかりと接待させてもらうらよ」
俺は冗談めかした口調で夜見にたかりながら、相も変わらず静かな夜のマンションを何事もなかったかのように後にした──。
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