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一 福来善朗の視点
「──ってことで、今回もまた頼むよ。バイト代はずむからさあ」
コンビニでのバイトの休憩中、友人の夜見真明からの着信があったので出てみると、そう言って彼の仕事の手伝いを頼まれた。
「まあ、お金もらえるなら別にいいけど……どうせ暇だし……」
その依頼に、バイト代につられた俺は考える間もなくそう答える。
俺の名前はら福来善朗。某事務所の養成所を出た、一応、ピンのお笑い芸人だ。
だが、どうやら俺のお笑いセンスはまだまだ世の人々には早いらしく、いまだ芸人としては食えていけず、バイトで日々の糊口を拭っているのが現状である。
つまりは、いわゆる一つの〝売れない若手芸人〟というやつであり、ともかくも臨時収入が入るのはありがたい。
「でもよお、おまえでも手に負えないくらい、今回はそんな難しい仕事なのか?」
だが、夜見の仕事は少々特殊なので、念のため、そこのところは確認しておく。
今回が初めてではないが、やつが俺を頼るのはそんな頻繁にあることじゃない。となれば、そうとうヤバイ案件ではあるのだろう……。
「いや、僕だけで無理な時でも、大概は知り合いのプロに頼んでどうにかなるんだけどね。ところが今回はみんなに匙を投げられた。って言っても、君はいつも通りにすればいいだけだから、難しいことはぜんぜんないよ」
しかし、そんな俺の懸念に、スマホ越しの夜見はいつもと変わらぬ穏やかな声で、特に狼狽する様子もなくそう答えた。
夜見が嘘を吐くとも思えないし、その言葉を信じてもいいだろう。
ま、俺には夜見のような力があるわけではないし、いずれにしろ俺にできることをするまでだ。
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