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「明日、お父さん、お母さんが迎えに来るから」
応接室で二人きり、施設の偉い人が、笑顔で僕にそう言った。
「殺されちゃいますよ、僕」
返した言葉に偉い人がうんうんってうなづいた。
「しょうがないよね。裁判所が決めたことだから」
「僕は、生きてちゃ駄目なんですか?」
偉い人が僕をじっと見つめる。僕は負けじと目をそらさないでいた。
「君は12歳だっけ?」
うなづいて見せた。先週、誕生日だった。誰も祝ってくれなかったけど。
「私が思うに、君が生まれてきた理由は、立派に死ぬためだね」
笑顔で、僕に向かって『立派に死ね』って言うこの人は、きっと頭がおかしいと思う。
「えーと、意味が、わからないです」
施設にいる間にたくさんの本を読んで、いっぱい勉強して、かなりマシになったはずだけど、偉い人の言うことは、やっぱり難しい。僕には理解できない。
「殴られたり、蹴られたりで死んではいけない。もう、そういうのは、皆が飽きてる。スルーされちゃう。飢死も、もうインパクトないなぁ。そんな死に方じゃあ、ヤフーの一面を飾れやしないよ」
「いや、飾りたくないし」
ひどいよね。僕の『生きたいんです』って思いは、最初から完全に却下されている模様。
「もっとこう、すっごい死に方なんかない? 火あぶりとかどうかな? 犬に食い殺されるとかなら、いけるかな? 兄弟いるんだっけ? バトルロワイヤルを親から命じられて、殺して勝ち残った方とかなら、皆に注目、浴びるかなぁ、どう思う?」
僕の死のネタで、どうして盛り上がれるんだろう? 他人の死なんてどうでもいいのかな? みんな狂ってるのかな? それとも、これが普通なの? 頭がおかしいのは僕の親だけじゃないってわけ? 他人の死は娯楽でしかないのかな?
「犬は、飼ってないと思う。兄弟はいないです。犬のように首に鎖をはめられたりはしたけど」
「そっかぁ、残念。注目される、すばらしい殺され方だと思ったのになぁ」
なんか、もうダメな気がする。殺されるの確定かも。
「・・・・できる限り、苦しまないで死にたいです」
施設の偉い人はノンノンと人差し指をたて、頭と一緒に左右に振って、僕の言葉を否定した。
「何を言ってるの? それじゃあ、ただの犬死。できるかぎりむごたらしく死んでこそ、意義がある。目を覆いたくなるような死を君が迎えたからこそ、社会が動く。かつてないぐらいに残酷に、苦しんで死になさい」
施設の偉い人は、僕にちゃんと、しっかり、残酷に殺されるようにと諭してくる。
「君の死は社会を変えるきっかけになる。子供は家族で育てるって考えを破壊して、社会で育てようって価値観に変わるきっかけになるんだよ」
価値観が変わるのはいいけれど、きっかけを作る役? これ、どうして僕がやらなくちゃいけないのか、納得いかないんですけど。
「僕は生贄、人柱ってやつですか?」
「おおっ、難しい言葉を知ってるね、偉い! そうねぇ、そんな感じ。法律って誰かが犠牲になって、なって、なりまくって、ようやく整備されるものだからね」
ここに来てから、いっぱい歴史の本も読んだ。名前もお墓も残ってない人たちが命をつないで、歴史を紡いできたわけで。歴史は戦争の歴史ばっかりで、そこではたくさんの人が亡くなっていて。
「犠牲になるのはいつだって、弱い人ですよね」
うんうんと偉い人がうなづいてくれた。
「そりゃ、そうだよ。だから、皆、力を得ようと切磋琢磨するわけよ。いつだって、力が正義。腕力大事、権力大事。私も偉い人に気に入ってもらえるように、毎日、日々、努力してるんだよ」
人権って何だっけ? 12歳の僕は所有物でしかないのかな? 何かの本で読んだけど、やっぱり生きるってのは苦でしかないのかな?
「ここに置いてくださるなら、あの人たちの元へ戻さないでくれたら、あなたに気に入ってもらえるように頑張ります」
僕のお願いは全く聞き入れてもらえない様子。
「君のご両親さぁ。配信のやり方とかわかるかなぁ? 一枚一枚、爪の皮、剝がしたりするとこアップしてくれないかなぁ? そういうこと、やってくれたら、一発で変わるよ。君の死が役立つ。社会が変わる!」
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