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「でも、やっぱり、その役は僕じゃなきゃいけないってことはないでしょう? 他のコだっていいじゃん」
「ん~。もちろん君じゃなきゃいけないってわけじゃないさ。毎年、いっぱい殺されてるのよ。でも何も変わらなかった。皆の心を動かすほどにはならなかった。可哀そうにね。全くの死に損だよ。だから、君の番がやって来たってとらえてほしい。君は死を無駄にしてはいけない」
「僕で、変えなければいけない?」
「そう、君ならできる。君がこの国の家族観を破壊するんだよ。それには可能な限り、残酷に殺されることだよ、かつてないほどにね!」
「簡単に言うけど、痛いのは嫌だ」
「君が受けた想像を絶する苦痛こそが社会を変えるんだよ。君は死んでも、その凶悪な子殺しの事件は皆の記憶に残る。それこそが社会を変える原動力になる!」
「もう、僕、死ぬしかないじゃないですか」
「え? まだ生きるつもりでいたの?」
偉い人は驚いたように、眉をひそめた。
僕は、今度こそ席を立った。もう、これ以上、話すことはない。残された限りある時間をどう過ごそうか。
ドアのノブに手をかけた。
「君さぁ」
ドアを開けて出ていこうとする僕に、再び声をかけてくる。
「もし、もしもだよ、君が生きる方を選ぶのなら、1週間以内だよ」
「一週間?」
「体力があるうちでなければ、不可能だからね。わかってると思うけど、また考えることすら、できなくなるから」
確かに、殴られ蹴られ、煙草を押し付けられとかの断片的な記憶はあるけれど、あの頃、僕自身が何を思い、考えていたか、まるで覚えていない。身体と一緒に、心も壊されていた。感情も破壊されていた。
「ニュースとかつまらんから、私は全く見ないのだけど、明日から、1週間は、気にかけておくから」
ドアを閉める時に軽く、一礼した。
偉い人は、バイバイと僕に向かって手を振ってみせる。
「どちらに転んでも、応援してるよ」
最後に僕に向けて発せられた言葉、それを押し戻すようにドアを閉じた。
おわり
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