芽吹屋

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セイ兄と詩と私は 店の離れにある、ちっちゃいたまご茸のような種工房に集合した。 詩の提案とはこういうものだった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「一つ提案があるんだけど・・・」 少年と一緒になって私たちも詩の言葉に耳を傾けた。 「ジャズと言う音楽に君は悩まされていたと思うんだ。」 みんなは頷きながら詩の話を聞いた。 「ジャズには複雑なコードが欠かせない。  このコードを操るためのセイ兄の記憶と  歌うようなメロディを操るためのオレの言の葉を  調合した種ができたらいいと思わない?」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ さてと、 私たちは工房の広いテーブルにセイ兄と詩の芽生えの実を並べた。 それから、種づくりに必要な作業を進め始めた。 しばらく種の調合をしていたけど どうも、セイ兄と詩の実の相性が悪いようでうまく結合しない。 すると、詩が言った。 「(めぐむ)の実って・・」 「・・あぁ」 セイ兄が相槌を打ちながら微笑んだ。 「なになに?」 割って入った私に詩が言った。 「萌の実、ちょうだい。」 言われるがままに一つもいで渡すと 私の『引き寄せの実』は、詩とセイ兄に何やら調べられている。 セイ兄が工房の壁一面の本棚から分厚いレシピ本を取り出して 「萠、これ作ってごらん。」と、見開いたページを指差した。 私は詩に教わりながら、始めて自分の実を種にする事ができた。 こうして出来たての種を粉末にするとセイ兄と詩の実に混ぜ合わせた。 すると、軽くぱちっと音を立てて赤く光ったと思うと さっきまでうまく結合しなかった二つの実が 引き寄せ合うように結合し始めた。 そして太陽のような明るいオレンジ色に変化した種が 弾けるように誕生したのである。 私たちは3人で目を合わせてにっこり笑いあった。 詩もセイ兄も優しい笑顔で愛おしそうに私を見ている。 なんだか初めて作った種が たまらなく誇らしくてワクワクしてきた。 それと同時に自分の『引き寄せの実』が好きになってしまった。 何より、私の実がセイ兄と詩の実を結合させたと思うと顔が笑ってしまう。 さあ! 少年に届けに行こう! 私は再び少年の待つマンションにオレンジ色の種をお届けに出向いていった。 そういえば、少年が勧めてくれたジュースもオレンジ色だったな。 私はインターホンを鳴らした。 「芽吹屋でございます。才能の種をお届けに参りました。」 悪戯っぽく言った私を、眩しい笑顔が歓迎してくれた。
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