芽吹屋

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数日後、店に顔を出していた詩に、 「これから約束の種を、お届けに行ってくるね」 と出来上がった種を見せて、支度をしに2階の自分の部屋へ向かうと 詩も一緒に部屋にきてベットに腰を掛けた。 そわそわと髪を整えて、服を選ぶのに夢中になっている私を眺めている。 詩がぽつりと言った。 「浮気者」 私は怯んだ。 「う、うるさいな、、ねぇ、どっちがいい?」 ポーズを決めて瞬きを数回した。 「可愛くない方」 詩が澄ましていった。 あの顔はバカにしている・・・私はちょっと唇を尖らせた。 詩は軽く声を立てて笑った。 結局、私は可愛い方を着て少年の家に向かった。 少年のマンションに着くとちょっとドキドキしながら インターホンを鳴らした。 すると、あの日の少年が顔を見せて部屋に招き入れてくれた。 部屋には古い大きなグランドピアノが鎮座している。 なんて、ピアノが似合う少年なんだろう。 追い討ちをかけるように 全面窓の明るい部屋が少年を神々しくみせる。 「これ、、約束の種・・」 一粒、ブルーの種を渡すと少年はすぐに飲み込んだ。 そして、自分は水を、、私にはオレンジジュースを勧めた。 少年が飲み込んだ種が体を巡ったその瞬間 若草色の(つる)がヒュルっと、しなって少年に巻き付いた。 綺麗な若葉がリズミカルに芽吹いていく。 ふっと、蔓が少年に馴染むと 少年はピアノの前に座り姿勢を整えた。 肩を浮かせて小さくブレスすると 長いしなやかな指から雨垂れのように音符が降り注ぎ始めた。 たちまち部屋が音符でいっぱいになっていく。 すごい・・ 逆立つ肌に震えながら、美しい音色に圧倒されていた。
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