芽生えし栞の恋

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七絵の席から離れた仁は、友人達から集まる黒板の前に戻ってくる。 「あっ、どこいってたんだよ?」 筧は戻ってきた仁に問いかける。 「別に。借りてた本返しにいっただけだよ」 「あの子って確か墨咲さんだよね?」 筧の隣にいた押森は、七絵の方を見て仁に訊ねた。 「私、仲良くなりたいんだけど声かけづらくて…。仲良くなったらあの可愛い顔を目一杯撫で回してオシャレさせてそれで一緒に買い物に…」 「うわっ、お前仲良くもなってないのにそんなこと思ってたのかよ」 「うるさいわね!妄想なら誰でも許されるのよ!」 「妄想でもそれはねえわ!墨咲さんが可哀想だろ!」 筧と押森の口喧嘩が始まり、仁は苦笑いを浮かべた。 ふと、再び七絵の方に視線を向ける。 すると、仁は視界に映ったものに目を大きくした。 自分が返した本を開き、感想が書かれた栞を見て微笑む七絵の笑顔が映ったのだ。 彼女の笑顔を目の当たりにし、仁は思わず目を逸らした。 「仁、どうした?」 急に顔を俯かせた仁の様子に気づいた筧は、彼に訊ねる。 「いや…何でもない。席戻るわ」 「お、おう…」 席に向かう仁の背中を見送り、筧と押森は首を傾げていた。 「はぁ…早く俺だけの笑顔になってくれないかな…」 紅潮した顔を伏せながら小さく呟いた後、仁は席へと戻っていく。 彼も七絵に恋心を芽生えさせていたことは、また別の話。
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