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『一華、あなたは私のようになってはダメよ…?あなたは名前と同じ華のように自分の為の華を咲かせなさいね』
(…夢…?母さま…)
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。傍らには既に居なくなってしまった遼太郎の温もりだけを残してベットのシーツにシワが出来ていた。
「母さまに…会いたいな…」
一華の花嫁姿を見る事無く6年前に病気でこの世を去ってしまった一華の母理華子は誰よりも優しく温かい女性だった。
自分の地位を鼻にかける事も無く、目下の者に対しての心配りも忘れず、誰からも愛される様な人柄だ。それに加えて容姿端麗で、老いに抗う事は無くとも華々しい姿のまま年を重ねていった。
それなのに…
そんな理華子を隆志は裏切り、外に何人かの愛人を作ってその内の一人には子どもまで産ませていたのだ。心優しい理華子はその事を咎めるばかりか妻として変わらずに愛し続け、床に伏せながらも亡くなる直前まで隆志の事を思い続けていた。
(母さま…愛とは…どのようなものなのですか…?私にはもう…分からなくなってしまいました…)
一華は肌身離さず身につけていた母の形見であるサファイアの指輪に柔らかく手を掛けて暫くの間目を瞑り母親への思いにふけていた。
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