冷たい涙

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「一華様、本日のご予定はどのようになさいますか?」 東條家には家事手伝いを行うお手伝いさんの他に専属の秘書兼執事、メイドが身の回りの世話やスケジュール管理を行っている。 スケジュール管理というのは名ばかりで実際のところは行動を管理する為の足枷だ。 一華に付いている執事は彼女が幼い頃からずっと成長を見守り続けている「角田(つのだ)」という名前の老齢の男性だった。 「…今日は久しぶりに母さまに会いに行って来ようかと思うの。送迎はいらないから一人にさせて下さい」 「分かりました。ですがお一人での外出は…」 「私はもう32歳なのよ?遠出する訳じゃないからもういい加減一人で出掛けさせてほしいの。父さまには何度もそう伝えているはずです」 角田は浅くため息をつくと口角を下げたまま言葉を口にした。 「年齢は関係ございません。貴女様に何かあっては困るという旦那様の親心ですよ」 (親心…ね) 心の中では鼻で笑っていたが表向きにはそれを出さずに冷静な顔つきで言葉を返した。 「そう…だけど少しは娘の事を信用して欲しいものよ。親心とはそういうものなのではないのかしら?私は…親になってはいないから想像でしかものを言えないけれどね」 親の心子知らず…とはよくいったものだけれど、その逆もまた然り…だと一華は強く思っていた。
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